第十話 六つの数字
ロト6を見つけてから、木曜日が気になるようになった。
新聞の隅に、当選番号が載る。父さんがたまにそれを見て、「一等なしだな」とか「またキャリーか」と言う。
俺はそのたびに、茶碗を持つ手を止めそうになった。
でも、自分から聞きすぎるわけにはいかなかった。
一周目の父さんが何度も話していたのは、六回目の抽せんだった。
五回目の当選番号まで確かめて、次の日曜を待った。
十一月分の小遣いをもらった日に、新しいゲーム雑誌を買った。帰りにラムネとガムも買って、今月使える分は二百七十円になっていた。
十一月に入って最初の日曜日、父さんが駅前まで行くと言った。
「俺も行く」
「本屋か?」
「それも行く」
「それも?」
父さんが靴を履きながら笑った。
「またロトか」
「うん」
「前は買わなかっただろ」
「今日は買う」
言ってから、早すぎたと思った。
父さんは少し首をかしげたけれど、それ以上は聞かなかった。
売り場で取ったロト6の紙には、1から43までの数字が並んでいた。
父さんは横からのぞき込んで言った。
「好きな数字を六つ選べ」
「六つ?」
「そう。適当でいい」
父さんの口ぶりでは、本当にちょっと遊ぶくらいのつもりらしい。
俺は鉛筆を持った。
手のひらが汗ばんでいる。
覚えている数字を、頭の中で並べる。
間違えたら終わる。
父さんに不思議がられるほど、真剣に選ぶわけにもいかない。
「こういち、そんなに考えるものじゃないぞ」
父さんが言った。
「分かってる」
「ずいぶん迷ってるな」
「どれにしようかなって」
「誕生日でも何でもいい」
誕生日。
その方が自然かもしれない。
俺が覚えている数字は、誕生日とは関係ない。
一つ目に丸をつける。
二つ目。
三つ目。
四つ目。
父さんが横で売り場のポスターを見ている。
五つ目。
六つ目。
最後の丸だけ、ほかより濃くなった。
「できた」
紙を父さんに渡す。
父さんはちらっと見て、何も言わずに窓口へ出した。
「一口でいいんだな」
「一口でいい」
「二百円」
二百円。
俺はポケットから百円玉を二枚出した。
父さんが笑う。
「ほんとに自分で出すのか」
「うん。自分の小遣いで買いたいから」
「じゃあ、なくなっても自分のせいだな」
「うん」
窓口のおばさんが券を渡してくれた。
父さんはそれを受け取って、俺に見せる。
「なくすなよ。いや、父さんが持っとくか?」
「父さんが持ってて」
「そんなに心配するな。二百円だろ」
二百円。
今の俺には大きい。
父さんは券を財布にしまった。
「本屋、行くんだろ」
父さんが言った。
「行く」
本屋へ入っても、雑誌の内容があまり頭に入ってこなかった。
父さんの財布に入った一枚の券が気になる。
家に帰ると、父さんは券を小さい封筒に入れて、居間の棚にしまった。
「抽せんは木曜だったかな」
「今週の木曜?」
「たしかな。新聞を見れば分かる」
今週の木曜日。
あと何日かある。
学校へ行って、授業を受けて、宿題をして、友達と遊ぶ。
その間ずっと待たなければいけないと思うと、それが思ったよりきつかった。
夜、花柄のノートの十一月のページを開いた。
使ったお金、二百円。
今月の残り、七十円。
書き終えても、鉛筆をすぐには置けなかった。
たった二百円。
でも、あのロトが当たれば。
そんなこと、誰にも言えなかった。




