第八話 夏休みの約束
約束した月曜日、朝のラジオ体操から戻った時には、シャツの背中がもう汗で張りついていた。
最初の一週間で半分終わらせるつもりだった宿題は、三日目までは順調だった。四日目から漫画を読み始め、今日は昼を過ぎても、やるつもりだった計算プリントが一枚残っていた。
「こういち、宿題進んでる?」
母さんに聞かれて、俺はプリントを見た。
「まあまあ」
「まあまあって言う時は、だいたい進んでないんだけど」
「少しは進んでる」
「少しね」
母さんは笑って、冷蔵庫から麦茶を出した。
時計は一時半を過ぎていた。ここであと一枚やれば、最初に決めた半分に少し近づく。
宿題があると言えば、行かない理由にはなった。
けれど、誘ったのは俺だった。
解きかけの一問だけ終わらせ、鉛筆を置いた。
「公園行ってくる」
「宿題は?」
「帰ってから続きやる」
「忘れないでよ」
「うん」
帽子をかぶって外へ出た。
公園へ着くと、遼太と悠斗は水飲み場の近くにいた。
「遅い」
「まだ二時前だろ」
「俺らはもう来てた」
二時の公園は、滑り台に触るだけで手が熱かった。鬼ごっこは遼太が一度鬼になったところで止まり、三人とも駄菓子屋へ逃げた。
店の中は少し暗くて、外よりはましだった。
「藤宮、アイス買う?」
「いくら」
「六十円」
「高いな」
「アイスだぞ」
「アイスでも高い」
悠斗が冷凍庫をのぞきながら言った。
「俺、二本に割れるやつにする」
「じゃあ俺も」
「四本になるぞ」
「一本余るじゃん」
「じゃんけんな」
三人で四十円ずつ出して、二つ買った。
「四十円なら安い」
「二十円しか変わらないだろ」
「安いのは安い」
三人で店の前に座り、二つのアイスを四本に割った。一本ずつ取って、残った一本はじゃんけんで遼太が取った。
「四十円で二本じゃん」
「勝ったからいいんだよ」
手がべたべたになって、遼太がズボンで拭こうとして、悠斗に止められる。
「それ怒られるやつ」
「ちょっとだけ」
「ちょっとでも怒られるぞ」
家に帰ると、途中だったプリントが扇風機の風で床へ落ちていた。
拾って机へ戻し、二問だけ続きをやったところで、母さんに「そうめんできたよ」と呼ばれた。
結局、最初の一週間で半分は終わらなかった。朝のラジオ体操へ行けない日もあり、午前中に漫画を読んでしまう日もあった。
それでも、八月の終わりに泣きそうになるほどはためなかった。
夏休みは、そういう日を何度か挟むうちに短くなった。
* * *
九月になって二学期が始まると、日焼けしている子が何人かいた。
遼太は自由研究を持ってきて、机の上に置いた。
「これ、昨日作った」
「言わなくていいだろ」
「でもできた」
「何これ」
「貯金箱」
「穴、ずれてない?」
「入ればいいんだよ」
悠斗が横から笑った。
七海は絵日記を見せてくれた。
「海行ったんだ」
「うん。クラゲいた」
「泳げた?」
「少しだけ。藤宮は?」
「公園と駄菓子屋」
「それ絵日記にしたら?」
「地味だろ」
「でも藤宮っぽい」
「どういう意味だよ」
「昔から、公園か駄菓子屋ばっかりだったじゃん」
「七海も一緒にいたことあるだろ」
「私は海にも行ったもん」
十月八日の日曜日、父さんと母さんが駅前へ行くことになった。
「こういちも来る?」
俺は顔を上げた。
「駅前?」
「本屋も寄れるよ」
本屋に寄れるなら、雑誌も見られる。
駅前には、父さんがたまに寄る銀行もある。
それで行く気になった。
「行く」
言ってから、花柄のノートを閉じた。
駅前に行くのは、久しぶりだった。




