第2話 凍える忘却の彼方
夢を見た。今は無き、遠い記憶の夢を。
凍えるような雪原で、少女の悲痛な慟哭が響く。喉が酷く痛む。そうか、泣いているのは自分自身だ。喉の奥から滲む血の味を噛み締めながら、痛みを振り切り尚も叫ぶ。
寒さで麻痺した体表の感覚から辛うじて察するに、左腕と両脚は既に存在しない。傷口から滴る鮮血が、純白の雪を緋く滲ませていく。極寒の吹雪に晒されていたからだろうか、不思議とその傷に痛みは無い。張り裂けんばかりの絶叫が、喉の痛みだけを感じさせていた。
体中の体温が雪に奪われていく。きっと自分は死ぬのだと、そんな実感と共にただ叫ぶ。悲痛な叫びは激しい吹雪の轟音に飲まれるが、それでも構わず叫び続ける。
遅れて気付いた。私は誰かを呼んでいるのだと。霞む視線のその先をじっと見据えると、そこには無残にも複数の武具で身体を貫かれた黒髪の男が横たわっている。私は死に体の男を呼び、血に塗れた右手を伸ばす。
願いに呼応するかのように、男の背から激しい炎の翼が立ち昇る。男もまた、血反吐を吐きながらこちらに左手を伸ばす。
無数の忍び寄る気配に心臓を締め付けられるような恐怖を感じながら、凍てつく吹雪の残響の果てで、少女の小さな手と男の大きな手が結ばれ、眩い光が二人を包む。
視界を覆う光の中で、こちらを冷徹に見つめる神を見た。そんな気がした。
夢は此処でいつも終わる。起きてしまえば、この夢はいつものように忘却の彼方へと投じられるだろう。だがそれでも覚えている事が1つある。脳裏に残っているのだ。私を救ってくれた、雪の凍えすらも忘れさせるような、暖かな焔が。優しさに満ちた彼の焔が。




