長角族
人の姿をした悪魔と呼ばれる異形の種族で、太古の昔、魔大陸ディス・ノグディスにて何らかの禁忌を犯し、一族追放という形で大陸を追われた種族の末裔だと言い伝えられている。
その大きな特徴は、名前の由来ともなった頭部から生えた角。
角には魔力とは異なる『妖力』と呼ばれる怪しげな力が宿っているらしく、角に触れた者は呪い殺されるという噂まで出回っている。
馬と同等の速度で走り、小さな羽虫の飛ぶ音を瞬時に聞き取る。
明かりのない暗闇の中でも夜行性の獣の様に目が利き、動き回る事が出来る。
長角族にのみ伝わる独特の武器と武術を駆使し、その戦闘に一切の無駄はない。
生命力が驚くほど強く首を撥ねない限り、四肢や腹部を刺して致命傷を与えても死ぬ事はない鋼の肉体を持っている。
性格は冷酷で残忍、それでいて狡猾。
人族や他の種族の領地を侵略し、同属以外の者は容赦なく殺す。
その行為に慈悲は全くない。
過去の数百年で数十あまりの小国が、長角族によって滅ぼされている。
……と、言われている。
長角族が人族にこれほど忌み嫌われているのは、かつて初代ウェンデール王国の国王を殺害したからである。
ウェンデールがまだ、その名ではなかった一小国だった時の事、国王は人族を始め、他の種族を束ね、巨大な共和国をイオ・ヒュムニアに建国する計画を立てており、多くの平和を望む種族が王に賛同し、次々と同盟を結んだ。そして、最後に同盟を結んだのが長角族だった。
同盟を結んだ全ての種族による厳かな儀式が執り行われる事となったが、その式典の最中に長角族により初代ウェンデール王国国王が刺殺されてしまう。
これに怒った人族は結託し、長角族討伐に乗り出した。少数民族である長角族は駆逐され、彼らはやがてイオ・ヒュムニア大陸を真っ二つに分断する中央山脈へと追い込まれていった。
険しい山脈の奥地へと逃げ込んだ長角族を追う事は困難を極め、それ以上の追撃はなされていない。
現在は山脈の人が立ち入る事が出来ない奥地に生き残り達が作った隠れ里があると言われている。
ただし、山脈以外の各地で長角族を見たと言う多数の目撃情報が王都に報告されており、騎士団が調査に乗り出すもその足取りを掴む事は出来ずにいる。
過去に起きた惨劇を忘れぬため、王都には『血の記憶』と名付けられた通りが今でも残っている。
しかし『長角族』という言葉自体が忌み嫌われ、人族の間では口に出すのも憚られ、辞書にすらその言葉が掲載されないほど禁忌と化している。