第八章 剣聖の戦い方
魔王城へ続く北の山道で、王国軍は待ち伏せを受けた。
道の片側は険しい岩壁。反対側は深い谷で、その底を濁流が走っている。敵兵は前後から道を塞ぎ、岩壁の上には弓兵まで並んでいた。
「挟まれました!」
ロベルトが剣を抜く。
狭い道では大軍の数を生かせない。退けば後方の部隊が押し合い、前へ出れば矢の雨を受ける。
シポが谷を覗き、上流を見た。
次に、道の脇へ積まれた伐採木を見る。太い丸太が何本も縄で固定されている。敵が後で橋を架けるために準備したものらしい。
シポは地面へ簡単な図を描いた。
道。
川。
丸太。
縄。
そしてアウリへ、小さな瓶を渡した。森で集めた植物から作った麻痺毒だった。
アウリは矢の先を瓶へ浸す。
「作戦が分かったのか?」
蓮が尋ねる。
通じない。
アウリは前方の敵を指し、蓮の肩を叩いた。次にクレールを指し、頭上から降る矢を示す。最後に自分と丸太を指した。
「俺が前を止める。クレールが矢を防ぐ。お前が縄を切る?」
アウリが頷いた。
「言葉がない方が分かりやすいの、ちょっと悔しいな」
蓮は聖剣を構えた。
「Go!」
前方へ駆ける。
敵兵の槍が一斉に突き出された。蓮は聖剣を地面すれすれに振り、金色の衝撃波で槍先を跳ね上げる。
頭上から矢が降る。
「Claire!」
白い結界が道全体を覆った。矢が次々と弾かれる。
その陰で、アウリが吹き矢を構えた。
一射目。
岩壁の上にいた弓兵が倒れる。
二射目。
丸太を固定する一本目の縄が切れた。
三射目。
もう一本。
最後の縄だけが残る。
敵兵も狙いに気づいた。数人が丸太へ向かう。
シポが石を投げ、先頭の兵の注意を引いた。その足元には、彼が撒いた滑りやすい木の実がある。兵たちは次々と転び、互いにぶつかった。
アウリが息を吹く。
最後の矢が縄を断った。
積み上げられていた丸太が道へ転がり出す。
敵兵は狭い山道で逃げ場を失った。丸太に押され、武器を捨てながら谷側へ追いやられる。
殺す必要すらなかった。
川へ落とし、戦闘不能にすればいい。
蓮は聖剣を地面へ突き立てた。
「どけぇ!」
金色の衝撃波。
残っていた敵兵がまとめて後方へ吹き飛ぶ。
川へ落ちた。
十数分後。
山道に立っている敵は一人もいなかった。
騎士団長ロベルトが呆然と川を眺める。
「剣聖様は……一度も剣を抜かれませんでしたな」
「持ってすらいませんよ」
アウリは満足そうに吹き矢を腰へ戻した。
蓮は思った。
この世界の人間が勝手に名付けただけなのだ。
勇者。
聖女。
賢者。
剣聖。
そんな肩書に、本人たちまで合わせる必要などない。




