第六章 必要ない、の意味
北部の町ガルダスには、魔王軍が使う転移門が隠されていた。
門が完成すれば、魔王城から兵が直接送り込まれる。蓮たちは騎士団とともに、完成前の破壊へ向かった。
廃砦の中庭に、黒い石柱が円を描いて並んでいる。魔族の兵が二十。中央では巨大な門が不気味な光を放っていた。
「あれを壊せばいいんですね」
「はい。しかし敵の術師が守っております」
ロベルトが剣を抜く。
蓮も聖剣を構えた。
戦闘が始まる。
クレールが前衛へ結界を張り、アウリの吹き矢が敵の術師を倒す。シポは石柱の配置を見ながら、魔力の流れを断てる場所を探していた。
蓮は門の前へ進み、聖剣を振り下ろす。
黒い衝撃が返ってきた。
身体が宙へ浮き、石壁へ叩きつけられる。
「Ren!」
クレールが駆け寄った。
胸と背中が痛む。だが骨は折れていない。転移門が再び明滅し、敵の増援が現れようとしている。
クレールが蓮の胸へ両手を当てた。
今、治療を受けている時間はない。
蓮はそう言いたかった。
「No! Claire!」
クレールの手を押し返す。
「I don't need……」
英単語を探す。
治療はいらない。
君の治療は、今はいらない。
「I don't need you!」
クレールの動きが止まった。
「Go! Go!」
蓮は転移門を指差した。クレールはゆっくり立ち上がり、前線へ戻った。
戦いは続いた。
シポが一本の石柱の根元を指す。アウリの吹き矢が、そこへ結びつけられた魔力線を切った。
障壁が弱まる。
蓮は聖剣を両手で握った。
「壊れろ!」
金色の斬撃が転移門を両断する。
黒い光が消え、残った魔族は退いた。
勝利だった。
だが、クレールは蓮を見なかった。
負傷した騎士たちを淡々と治療し、蓮の番になると別の治癒術師を呼んだ。
「Claire」
「……」
彼女は背を向けた。
蓮には理由が分からなかった。
夜、野営地でシポが蓮の隣へ座った。シポは自分を指し、次に蓮を指す。
「I don't need you」
それから胸の前で大きな×を作り、遠くへ行けと手を振った。
「……え?」
蓮はようやく、自分が口にした言葉の意味を考えた。
俺は君を必要としていない。
治療ではない。
クレールそのものが必要ない、と言ってしまったのだ。
少し離れた場所で、クレールは一人、火を見つめていた。
蓮は立ち上がろうとした。
だが、何と言えばいいのか分からない。
必要ない、は簡単に言えた。
その反対を、蓮はまだ英語で言えなかった。




