第四章 一つの部屋、二つの誤解
魔獣討伐を終えた夜、一行は村で唯一の宿へ泊まることになった。
問題は、空いている部屋が二つしかなかったことだ。
ロベルトの説明によれば、シポとアウリが一室、蓮とクレールが一室。王国の人々には、勇者と聖女を同室にすることへの抵抗があまりないらしい。
「いや、あるだろ。普通」
「何か問題がございますか?」
「大問題ですよ」
しかしクレールは宿の主人から鍵を受け取ると、何も気にせず部屋へ入っていった。
蓮は迷った末、後を追う。
部屋には寝台が一つしかなかった。
「……一つ?」
クレールもさすがに固まった。
「One bed」
「Yes。One」
蓮は寝台を指し、次にクレールを指した。
「You sleep」
それから自分を指し、床を指した。
「I sleep floor」
クレールは眉を寄せた。床を叩き、蓮を指差す。
「No」
「大丈夫。俺、床で寝るから」
「No!」
クレールが扉を指差した。
蓮は意味を考えた。
出ていけ。
たぶん、そういうことだ。
「分かったよ」
蓮は部屋を出た。
クレールは慌てて何かを言ったが、廊下へ出た蓮は扉を閉めた。
後になって分かったことだが、クレールが言いたかったのは、宿の主人にもう一つ寝具を持ってきてもらおう、だった。
蓮は廊下の壁にもたれ、腕を組んで目を閉じた。石造りの城よりは温かいが、板張りの床は硬い。
しばらくして扉が開く。
クレールが毛布を抱えて立っていた。
「Ren」
「何?」
彼女は毛布を蓮の肩へ掛けた。それから、自分の胸へ手を当てる。
「Claire」
「知ってるよ」
「France」
今度は遠くを指差した。
「フランス」
蓮も自分を指した。
「Ren。Japan」
「Japan」
「Yes」
二人は廊下へ並んで座った。
蓮は紙へ日本列島の形を描こうとした。ひどく曲がった。クレールは笑い、隣にフランスの六角形を描く。蓮にも分かるくらい上手かった。
クレールが魔獣との戦いを身振りで再現した。
「Right」
蓮が右を指す。
「Light」
クレールが光を放つ真似をする。
二人は同時に笑った。
「Friend?」
クレールが尋ねた。
蓮は頷く。
「Friend」
言葉がほとんど通じないまま、二人は最初の友人になった。




