第三章 ライトと右は違う
四人にとって最初の実戦は、王都から二日ほど離れた村で起きた魔獣被害だった。
巨大な狼に似た魔獣が家畜を襲い、森へ逃げ込んでいる。討伐そのものは勇者一行だけでも十分だと判断されたが、問題は連携だった。
「最低限の言葉だけ覚えよう」
出発前、蓮は紙へ五つの英単語を書いた。
Go。
Stop。
Right。
Left。
Back。
蓮の英語力でも、これくらいなら分かる。クレールも頷いた。シポは発音を一度聞いただけで覚え、アウリは紙を見ず、蓮の身振りだけを見ていた。
「Right」
蓮が右を指す。
「Right」
クレールが繰り返す。
「Light?」
「違う。Right」
「Right」
「そう、それ」
不安は残ったが、魔獣は待ってくれない。
森へ入って一時間後、シポが泥の上に残る足跡を見つけた。人間の胸ほどもある大きさだった。アウリは折れた枝を見て進行方向を示す。
獣は村の近くではなく、森の奥へ向かっていた。
「追い込めるか?」
ロベルトが蓮に聞く。
「やってみます」
魔獣は岩場の陰から飛び出した。
黒い毛。赤い目。牛ほどもある身体。
蓮は聖剣を構えたものの、真正面から迫る牙を見て足が止まった。剣の強さと、使う人間の勇気は別物だった。
「Ren!」
クレールの声。
白い結界が蓮の前へ展開する。魔獣が激突し、結界に亀裂が走った。
「右へ!」
蓮は叫んだ。
当然、日本語では伝わらない。
「Right!」
クレールが両手を上げた。
「Light!」
森が真昼より明るくなった。
「違う! 右! そっちじゃなくて!」
蓮は光をまともに見てしまい、何も見えなくなった。魔獣の唸り声だけが近づく。
「Right! Right!」
「Light!」
二発目の光魔法。
「だからライトじゃなくてライトなんだよ!」
自分でも何を言っているのか分からない。
だが魔獣も強烈な光に怯んでいた。
その一瞬を、アウリは逃さなかった。
吹き矢が魔獣の首へ刺さる。シポが用意した麻痺毒が回り、巨体が傾いた。
「今だ!」
蓮は半分しか見えないまま前へ出た。
聖剣を横へ振る。
金色の斬撃が走り、魔獣を倒した。
戦いが終わると、クレールは満足そうに蓮へ駆け寄った。
「Light! Good?」
「光はすごかったよ。光は」
「?」
「Right」
蓮は右を指した。
「Light」
クレールは両手を広げ、光を示した。
二人はしばらく見つめ合った。
村人たちは、見事な連携で魔獣を倒した救世主たちへ歓声を送った。
当人たちは、その連携がほとんど事故だったことを黙っていた。




