第二章 剣聖は剣を使えない
翌日、四人にはそれぞれの称号にふさわしい装備が用意された。
蓮の前には、金色の光を放つ聖剣が置かれた。
「勇者のみが扱える、王国の至宝でございます」
騎士団長ロベルトが恭しく頭を下げる。
蓮は聖剣を持ち上げた。驚くほど軽い。試しに振ってみると、机の端が斬れた。
「おお!」
周囲から歓声が上がった。
「いや、今のは剣がすごいだけですよね?」
蓮は剣道どころか、スポーツらしいスポーツもしてこなかった。振り方を知らない。構えも分からない。ただし聖剣は、持ち主の意思に応じて衝撃波まで放つらしい。
「まあ、当たれば何とかなるか……」
次はクレールだった。
彼女が両手を傷ついた兵士へ向けると、白い光が広がった。切り傷が見る間に塞がっていく。さらにクレールは傷口を洗うよう身振りで示し、包帯の巻き方まで直した。
「聖女様は、元の世界でも医療の心得がおありなのですな」
大神官が感激している。
クレールは治癒魔法だけに頼らず、患者の脈と呼吸を確かめていた。言葉が分からなくても、その手つきが確かなことは蓮にも分かった。
シポには分厚い魔導書が渡された。
彼は数ページめくり、すぐに閉じた。
「お気に召しませんか?」
シポは窓を開け、空と風を確かめた。それから外へ出ると、城の井戸へ向かう。水をすくい、匂いを嗅ぎ、周囲に生える草を見た。
そして王国の人々に何かを説明し始めた。
「三刻ほどで雨が降るそうです。また、この井戸には汚水が流れ込んでいる可能性が高い、と」
通訳役の王女エレオノーラが蓮へ伝えた。
半信半疑だった兵たちが井戸を調べると、地下の排水路に亀裂が見つかった。昼過ぎには、晴れていた空から本当に雨が降った。
「魔法ですか?」
ロベルトが尋ねる。
シポは首を横に振った。風と雲を見ただけらしい。
最後に、アウリへ一振りの長剣が渡された。
アウリは柄を握った。ぎこちなく一度振り、首を傾げる。そして剣を床へ置いた。
「剣聖様?」
代わりに彼が取り出したのは、細長い筒だった。
吹き矢。
訓練場で試すことになった。
王国一の魔術師が、三重の防御障壁を張る。その向こうには鉄の盾、さらに石壁がある。
アウリは吹き矢を口に当てた。
短く息を吹く。
小さな矢は一枚目の障壁を抜き、二枚目を抜き、三枚目まで突き破った。鉄の盾へ穴を開け、背後の石壁に深く刺さった。
訓練場が静まり返る。
アウリは何事もなかったように筒を腰へ戻した。
王国の重臣たちは長い協議に入った。
勇者は剣術を知らない。
賢者は魔導書を読まない。
剣聖は剣を使えない。
それでも、聖剣は岩を斬り、賢者は空と水を読み、吹き矢は王国最高の障壁を貫いた。
最終的な政治判断は、実に柔軟だった。
剣聖は剣を使わなくても剣聖である。




