第十二章 勇者の一番難しい戦い
王都へ戻った四人は、英雄として迎えられた。
祝賀会は三日続いた。
シポには王立学院から研究室が与えられた。
本人は「森に近い場所がいい」と要求したらしく、王都郊外に薬草園付きの研究所が造られることになった。
アウリには騎士団の剣術指南役への就任が打診された。
断った。
代わりに斥候部隊の教官となった。
就任初日、訓練用の剣を全て倉庫へ片づけさせたという。
そして蓮。
最大の問題が残っていた。
「帰還魔法の準備が整いました」
王女エレオノーラからそう告げられた。
「皆様が望めば、元の世界へお帰しできます」
「……帰れるんですか」
「はい」
喜ぶべきだった。
日本。
大学。
家族。
友人。
半年しか経っていない。
戻れるなら戻りたい。
そう思う。
なのに蓮の頭に浮かんだのは、金髪の女性だった。
◇
その夜、蓮は城の庭へクレールを呼び出した。
一週間前から英語を練習した。
魔王戦より準備したかもしれない。
「Claire」
「Yes?」
「I……」
出ない。
「I……」
クレールが首を傾げる。
蓮の額から汗が出た。
練習した文章は完璧だった。
少なくとも部屋では言えた。
だが本人を前にすると全部消えた。
「I like……」
「?」
「I like you」
言えた。
そこから続かない。
「Very……」
蓮は必死だった。
「Very many」
クレールの目が大きくなった。
そして笑い始めた。
「笑うなよ!」
「Sorry!」
笑いながら謝っている。
「こっちは真剣なんだぞ」
クレールには伝わらない。
蓮は頭を抱えた。
「My English is……bad」
「Yes」
「即答するな!」
クレールが一歩近づいた。
「Ren」
「ん?」
「わたしも」
日本語だった。
蓮が固まる。
クレールは一語ずつ、慎重に続ける。
「あなたが、好きです」
「……」
「Ren?」
「いつ覚えたんだよ、それ」
「?」
蓮の言葉はまだ全部は分からない。
けれど意味は伝わった。
半年間。
二人は少しずつ相手の言葉を覚えてきた。
便利な翻訳魔法など使わずに。
蓮は息を吐く。
最後に、一週間練習したもう一つの言葉を口にした。
「Je t'aime」
クレールが驚いた。
発音が正しかったのかは分からない。
それでも伝わった。
クレールの顔がゆっくり笑顔へ変わる。
「Moi aussi」
今度は蓮には分からなかった。
「何?」
クレールが蓮の胸を軽く叩いた。
そして日本語で言った。
「わたしも」
蓮は笑った。
◇
結局、二人は地球へ帰らなかった。
正確には、一度だけ帰還魔法を使って、それぞれの家族へ会いに行き、再びアルヴェリアへ戻った。
シポも戻ってきた。
アウリも戻ってきた。
理由は四人とも違った。
だがこの世界には、自分たちを待っている人々がいた。
そして何より。
四人とも、ここで自分の役割を見つけていた。




