第十一章 世界で一番通じない作戦
魔王の力は圧倒的だった。
蓮の聖剣が黒い障壁へ弾かれる。
「くそっ!」
何度斬りつけても通らない。
クレールの光魔法も同じだった。
アウリの吹き矢すら障壁の手前で落ちる。
シポだけが戦わず、魔王の動きを見ていた。
「どうすればいい!」
蓮が叫ぶ。
通じない。
シポは答えない。
魔王が黒い槍を放つ。
クレールの結界が受け止めた。
一枚。
二枚。
三枚。
次々と砕ける。
「Claire!」
「Okay!」
蓮が前へ出る。
黒い槍を聖剣で打ち払う。
そのとき、シポの目が動いた。
魔王ではない。
玉座の後方。
壁に埋め込まれた黒い結晶。
魔王が攻撃するたび、かすかに光っている。
シポは床の石を拾った。
蓮へ投げる。
「痛っ!」
何をするんだ、と振り返る。
シポが黒い結晶を指差す。
「……あれ?」
シポが頷く。
アウリも気づいた。
吹き矢を構える。
だが障壁がある。
シポが蓮を見る。
魔王を指差す。
次にクレールを見る。
アウリを指す。
蓮には分からない。
「何だ?」
クレールが蓮の肩を掴んだ。
「Ren」
「ん?」
魔王を指差す。
「Go」
たった一語。
半年間、何度も聞いた。
「……了解」
蓮は笑った。
魔王へ突撃する。
「うおおおお!」
聖剣を何度も叩き込む。
障壁が火花を散らす。
「無駄だ!」
魔王が両手を蓮へ向ける。
注意が完全に勇者へ向いた。
その瞬間。
クレールが動いた。
アウリの前へ結界を展開する。
魔王の障壁を破るためではない。
城内を渦巻く魔力から、一本の吹き矢を守るため。
シポが指を立てる。
三。
二。
一。
アウリが吹いた。
小さな矢が飛ぶ。
魔王の背後へ。
「なに――」
黒い結晶に突き刺さった。
亀裂が走る。
砕ける。
同時に、蓮の聖剣を阻んでいた障壁が消えた。
「今だ!」
日本語。
クレールには分からない。
それでも彼女は両手を蓮の背へ向けた。
白い光が蓮を包む。
身体から力が溢れる。
「Claire!」
「Go!」
聖剣を振り上げる。
魔王の顔に、初めて恐怖が浮かんだ。
「待て!」
「待つかぁぁぁっ!」
金色の光が魔王の身体を飲み込んだ。
◇
静寂が戻った。
玉座が崩れている。
魔王の姿はない。
蓮は聖剣を床へ突き、何とか立っていた。
「終わった……?」
クレールが近づいてくる。
「Ren?」
「大丈夫」
通じないと思った。
だがクレールは笑った。
「Daijoubu?」
蓮は目を丸くした。
「覚えてたのか」
「Daijoubu?」
「ああ」
蓮も笑った。
「大丈夫」
シポが腰を下ろす。
アウリも柱へ背を預けた。
四人とも疲れきっていた。
それでも笑っていた。
世界で最も会話の成立しない救世主たちが、魔王を倒した。




