第十章 魔王の切り札
魔王は、人間とそれほど変わらない姿をしていた。
黒い髪。
青白い肌。
長い角。
巨大な玉座へ座り、四人を静かに見下ろしている。
「よく来たな、異界の者たちよ」
蓮には完璧な日本語に聞こえる。
「お前が魔王か」
「いかにも」
「話が早くて助かるよ」
クレールが何かを言う。
魔王は普通に答える。
蓮にはクレールの言葉だけ分からない。
「そこはやっぱりそのままなのかよ」
「何を言っている?」
「こっちの話だ!」
魔王が立ち上がる。
「だが、貴様らがどれほど強くとも、我には勝てぬ」
両手を広げた。
城全体が震えた。
「人は言葉によって群れ、言葉によって命じ、言葉によって戦う。ならば、その言葉を奪えばよい」
黒い波が広がった。
蓮の身体を通過する。
「……?」
何も起きない。
いや。
扉の外から悲鳴が聞こえる。
王国兵たちが互いに叫んでいる。
だが意味が通じていない。
「《言語封鎖》」
魔王が笑った。
「この城にいる全ての者は、他者の言葉を理解できぬ。指揮系統を失った軍など、烏合の衆にすぎん」
確かにその通りだ。
クレールが蓮を見る。
「Ren?」
英語。
分かる。
シポが何かを言った。
元から分からない。
アウリも同じ。
蓮は瞬きをした。
クレールも同じことに気づいたらしい。
四人で顔を見合わせる。
「……いつもと変わらなくない?」
当然、日本語は三人には伝わらない。
だが全員、同じ結論に達していた。
魔王の笑顔が消える。
「なぜ混乱せぬ」
蓮は聖剣を構えた。
「最初からまともに通じてねえんだよ!」
魔王には完璧に伝わった。
「何?」
「半年ずっとこうやって戦ってきた!」
クレールが蓮の右側へ。
シポが後方へ。
アウリが柱の陰へ移動する。
指示はない。
それでも四人は自分の位置を理解していた。
「行くぞ!」
蓮が駆けた。




