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大剣の冒険者 〜不格好な刃が紡ぐ英雄譚〜  作者: beck2026
第二部〜欲望の都と、檻の中の銀〜

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第八十六章:冷たい牢獄と、砕けぬ絆

ザルバの地下深くにある衛兵隊の牢獄。

陽の光すら届かない冷たい石の床に放り出されたレイは、両手首を戒める重い鉄の鎖を引きちぎらんばかりの勢いで、何度も石壁を殴りつけていた。

 

「くそっ……! くそぉぉぉッ!」

 

拳から血が滲み、石の壁が赤く染まっても、痛みなど感じなかった。

頭の中にこびりついているのは、髪を掴まれ、自分に向かって必死に手を伸ばしながら引きずられていくシロの泣き顔だけだ。

 

法と権力。仲間を人質に取られれば、どれほど理不尽な重さの剣を持っていようと振り下ろすことはできない。またしても自分は、大切なものを目の前で奪われることしかできなかったのだ。

 

深い無力感と自己嫌悪に苛まれ、レイが床に崩れ落ちそうになった、その時だった。

 

ドサッ、と。

牢屋の外で見張りをしていた衛兵が、不自然な音を立てて床に倒れ伏した。

 

「……相変わらず、一番厄介な貧乏くじを引きやがる」

 

暗がりの中から、軽い足音と共に聞き慣れた声が響く。

鉄格子の前に姿を現したのは、気絶した衛兵から奪った鍵束を指先で回すアレンと、周囲に認識阻害の魔法を展開したシェリアだった。

アレンの背には、衛兵の武器庫から奪い返してきたであろう、分厚い布に包まれた『封魔の黒鋼』が背負われている。

 

「アレン……! シェリア……どうして! 衛兵に逆らえば、二人とも……」

 

「バカ言え。俺たちが大人しく宿屋で震えてるようなタマに見えたか?」

 

アレンが鼻で笑いながら、ガチャリと牢屋の鍵を開ける。

 

「お前が連行された直後に、ギルドの連中から話は聞いた。俺たちを人質にしてお前を縛り上げたんだってな。……上等だ。俺たちの首に勝手に鎖をかけようってんなら、その腐った腕ごと切り落としてやるのが冒険者ってもんだろ」

 

「アレンの言う通りよ、レイ」

シェリアが静かに歩み寄り、レイの手首に嵌められた鉄枷を魔法で焼き切った。

「それに、あなたが捕まっている間、ただ待っていたわけじゃないわ。あの『ヴァルダー子爵』について調べさせてもらったのだけれど……黒よ。ただの悪徳貴族じゃない」

 

シェリアの言葉に、レイが顔を上げる。

 

「あの子爵、地下闘技場を隠れ蓑にして、大量の魔石や奴隷の命を『何か』に注ぎ込んでいるわ。その魔力反応の性質は……私たちがルミナスで壊した、あの『迷宮の核』と酷似している」

 

「なんだって……!?」

 

「人間の悪意と、迷宮の元凶。それが繋がっているのなら、私たちのやるべきことは一つよ」

 

シェリアはそう言って、優しく微笑んだ。

アレンが背中から布に包まれた黒鋼を下ろし、レイの胸へと力強く押し付ける。

 

「迷宮の化け物だろうが、街の権力者だろうが関係ねえ。俺たちの大剣使い(前衛)が守ると決めたもんは、何がなんでも守り抜く。そうだろ?」

 

「アレン……シェリア……」

 

バラバラに軋んでいたパーティーの絆は、引き裂かれていなかった。それどころか、理不尽な悪意を前にして、かつてないほど強固な鋼となって結びついていた。

レイは黒鋼の柄をしっかりと握りしめ、その圧倒的な質量を再び背中へと背負う。

 

「……ああ。行こう、二人とも。シロを……あの子を取り戻す」

 

時を同じくして。

ヴァルダー子爵邸の地下深く、闘技場の見世物たちを閉じ込める不潔な檻の中。

シロは両手両足を鎖で壁に繋がれ、ボロボロと涙をこぼしていた。

 

「明日の夜の興行は盛り上がるぞ、『四十二番』」

 

檻の外から、ヴァルダー子爵が嗜虐的な笑みを浮かべてシロを見下ろしている。

「生意気な冒険者に飼われて、少しは人間に希望を抱いたか? だが、お前は明日、飢えた魔獣の餌として闘技場に放たれる。観客たちの嘲笑の中で、絶望しながら肉を喰いちぎられるがいい」

 

かつてのシロなら、その言葉を聞いてただ震え、心を完全に壊していただろう。

だが、今の彼女は違った。

繋がれた手の中に、あの温かく分厚い手のひらの感触が、確かに残っている。

 

(ご主人様は、私のために怒ってくれた。私の手を、優しく握ってくれた……)

 

シロは涙に濡れた銀色の瞳を上げ、初めて、自分を虐げる者から目を逸らさずに睨み返した。

 

「……ご主人様は、来ます。私を、助けに……」

 

「……なんだと?」

 

「あの人は、絶対に私を見捨てない。……あなたたちの鎖なんて、あの大剣が全部、壊してくれる……ッ!」

 

少女の小さな、しかし決して折れない反逆の声が、冷たい地下室に響く。

欲望の都の暗部をぶち破る、黒鋼の反撃の狼煙が、今まさに上がろうとしていた。

最後まで『大剣の冒険者 第二部 〜欲望の都と、檻の中の銀〜』をお読みいただき、誠にありがとうございました。

人質に取られたはずの仲間たちが自らの意志で牢を破り、迷宮の謎へと繋がる大きな悪意に立ち向かう決意を固める展開を描かせていただきました。絶望の中でレイを信じ抜くシロの小さな強さも芽生え始めています。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

いよいよ地下闘技場での奪還作戦が始まります。皆様からの応援が次なる展開を描き続けるための最大の原動力となります。どうぞよろしくお願いいたします。

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