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大剣の冒険者 〜不格好な刃が紡ぐ英雄譚〜  作者: beck2026
第1部 鉄の塊を背負う者

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第六十九章:片腕の盾と、消えない炎

冷たい雨が降り続くギルムの街。

救護所の薄暗い一室で、レイはただ時間が過ぎるのを感じながら、抜け殻のようにベッドの端に座っていた。

 

食事には一切手をつけず、窓から見える灰色の空だけを眺めている。

武器を握ることも、立ち上がって前を向くことも、今の彼にはできなかった。

 

ギィ、と重い木製の扉が開く音がした。

シェリアがまた食事を下げに来たのだろうと思い、レイは顔を上げずに「ごめんなさい」と呟いた。

 

しかし、部屋に入ってきたのは、重く引きずるような足音だった。

 

「……情けねえツラしてんな、大剣使い」

 

その聞き慣れた豪快な声に、レイは弾かれたように顔を上げた。

そこに立っていたのは、包帯だらけのボルグだった。

 

かつての丸太のように太かった右腕は、肩の付け根から先が失われ、包帯が虚しく巻かれている。

顔色は青白く、頬はげっそりとこけ、ルミナスで出会った頃の圧倒的な巨漢の面影は薄れていた。

それでも、彼を支える左手と、その両目に宿る力強い光は、少しも失われてはいなかった。

 

「ボ、ルグさん……どうして、起きて……」

 

レイが慌てて立ち上がろうとした瞬間、ボルグの巨大な左手が、レイの胸ぐらを強引に掴み上げた。

 

「がっ……!」

 

「お前がいつまでもウジウジしてっから、俺が直々に説教しに来てやったんだよ」

 

ボルグはそのままレイを壁へと乱暴に押し付けた。

片腕になっても、その左手には確かな力がこもっている。

 

「俺の腕を奪ったのは、あの化け物だ。お前じゃねえ。

 お前は俺たちを逃がすために、たった一人で奈落に残った。……あの時の背中、最高に格好良かったぜ」

 

「でも……! 僕が弱かったから、大剣を落としたから、レオンさんが……っ!」

 

レイが悲痛な叫びを上げると、ボルグはさらに強く胸ぐらを締め上げた。

 

「ああ、そうだ。お前が弱かったから、あの美剣士は命を落とした。

 俺が弱かったから、腕を無くした。

 アレンが弱かったから、絶望して酒に逃げてる。

 それがどうした?」

 

ボルグの言葉は、冷酷なまでに事実を突きつけてきた。

しかし、その声の底には、泥臭くも燃えたぎるような熱があった。

 

「俺たちは冒険者だろうが。

 弱いなら、強くなるしかねえ。失ったなら、残ったもんで戦うしかねえんだよ。

 あのレオンって男は、お前に自分の命を懸ける価値があると思ったから、水晶を渡したんだろ。

 ……その命を、こんな薄暗い部屋で腐らせるつもりか?」

 

ボルグの真っ直ぐな瞳に見つめられ、レイの目から再び涙が溢れ出した。

だが、今度の涙は、ただの絶望からくるものではなかった。

 

「盾が持てなくなった俺の分まで、お前が前を張れ。

 俺の失った右腕の分まで、お前が剣を振れ。

 ……立ち上がれ、レイ。俺たちの『大剣の冒険者』は、こんなところで折れるようなヤワな鉄クズじゃねえはずだ」

 

ボルグはゆっくりと手を離し、乱れたレイの襟元を左手で軽く叩いた。

 

壁に背を預けたまま、レイは床に崩れ落ち、声を上げて泣いた。

己の弱さを、無力さを、そして仲間たちの大きさを噛み締めながら。

 

雨の音に混じって、少年の心の奥底で完全に消えかけていた小さな炎が、泥にまみれながらも再び熱を帯びてくすぶり始めていた。

最後まで『大剣の冒険者』をお読みいただき、誠にありがとうございました。

絶望に沈むレイを救い上げたのは、同じく癒えない傷を負った仲間・ボルグの言葉でした。泥臭くても、不格好でも、再び立ち上がろうとするレイの姿を描かせていただきました。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

仲間たちの想いを背負い、再び前を向こうとするレイがこれからどう進んでいくのか。皆様からの応援が次なる展開を描き続けるための最大の原動力となります。どうぞよろしくお願いいたします。

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