第六十七章:還らぬ背中と残された掌
視界を覆っていた眩い光が弾け、次の瞬間、レイの身体は冷たい石畳の上へと激しく投げ出された。
「……っ、が……!」
全身を焼く強酸の激痛と、肉を削ぎ落とされた絶望的な疲労感が一気に押し寄せる。
咳き込むたびに血の塊が床を汚した。
薄れゆく意識の中で周囲を見渡すと、そこはギルムの冒険者ギルドの裏手、臨時の救護所として使われていた広場だった。
「レイッ!? お前、生きて……!」
悲痛な叫び声と共に駆け寄ってきたのは、泥と血にまみれたアレンだった。
その後ろからは、顔を涙でぐしゃぐしゃにしたシェリアが、レイの無惨な姿を見て言葉を失って立ち尽くしている。
奥のベッドでは、片腕を失ったボルグが神官たちの治療を受けながら、昏睡状態に陥っていた。
「アレン……さん……、シェリア、さん……」
レイはひしゃげた右手を伸ばそうとした。
しかし、その手には、あの鈍い銀色の大剣がない。
絶望の底で力を失い、奈落の床へと落としてきてしまったのだ。
「無茶しやがって……! よく一人で逃げ延びたな……!」
アレンが震える手でレイの身体を抱き起そうとする。
だが、レイはその言葉に首を振った。
「違う……僕じゃ、ない……」
レイの虚ろな瞳から、堰を切ったように血の混じった涙が溢れ出した。
「レオンさんが……僕の代わりに……水晶を……っ」
その名前が出た瞬間、アレンの動きが完全に止まった。
シェリアが両手で口を覆い、その場に崩れ落ちる。
「あんなに、ボロボロだったのに……僕なんかを庇って……闇の底に……!」
レイは血に濡れた己の掌を、狂ったように石畳へと叩きつけた。
何度も、何度も。
皮膚が裂け、骨が軋む音を立てても、止めることができなかった。
誰かの盾になる。そう誓って、あの大剣を背負ったはずだった。
圧倒的な質量があれば、どんな窮地も叩き潰せると信じていた。
しかし、現実はどうだ。
盾になるどころか、最も大切な仲間の腕を奪われ、一番憧れていた恩人の命を代償にして、自分だけがおめおめと生き残っている。
「あァァァァァァァァッ!!」
獣のような、悲痛な慟哭が夕暮れのギルムに響き渡る。
かつて英雄が遺した大剣は、今はもうない。
圧倒的な絶望を前に、少年が積み上げてきた自信と誇りは、レオンの命と共に完全にへし折られてしまったのだ。
残されたのは、何も護れなかった己の弱さと、一生消えることのない深い喪失感だけだった。
最後まで『大剣の冒険者』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
己の弱さを呪い、恩人を失った絶望に泣き叫ぶレイ。彼からすべてを奪い去った残酷な現実を前に、物語は最も深く暗いどん底へと沈みました。
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すべてを失ったレイが、この暗闇の中で再び立ち上がることができるのか。皆様からの応援が、次なる展開を描き続けるための最大の原動力となります。どうぞよろしくお願いいたします。




