第六十六章:閃光の散華
無数の顎が、レイの四肢を噛み砕こうと殺到したその刹那。
漆黒の奈落を、一条の眩い閃光が切り裂いた。
――ピィィィィンッ!!
甲高く、しかしどこまでも透き通った剣鳴。
レイに群がろうとしていた異形たちの頭部が、瞬きする間すらなく、見えない幾筋もの刃によって原形を留めぬほどに細切れにされた。
再生すら追いつかないほどの、極限の速度と精度を持った刺突の嵐。
飛び散る酸の血液を紙一重でかわし、暗闇の中にふわりと舞い降りた影があった。
「……遅いぞ、新入り」
その声に、レイは微かに開いた瞳を疑った。
そこに立っていたのは、全身を血に染まった包帯でぐるぐる巻きにした、レオンだった。
まともに歩くことすら不可能なはずの重傷。その身体を無理やり動かすためか、彼の端正な顔には幾筋もの青黒い血管が浮かび上がり、細剣を握る右手からは、彼自身の生命力が削り取られた赤い魔力の粒子が立ち昇っている。
「レ、オン……さん……? どう、して……」
「街の入口で、片腕を無くして泣き喚く大柄な男とすれ違ってな。……嫌な予感がして、死にかけの身体に無理やり特効薬を打ち込んできた」
レオンは血を吐きながらも、いつものように冷たく、しかしどこまでも優しく笑った。
「馬鹿者が。誰かの盾になるのは、お前が本物の『大剣使い』になってからだと言っただろうが」
ズズ、ズズズ……。
細切れにされた異形たちが再び肉塊を寄せ集め、さらなる大群となってレオンとレイを包囲する。
しかし、レオンの背中には微塵の恐怖もなかった。
彼は懐から、淡く輝く一つの青い石を取り出し、動けないレイの胸元へと押し付けた。
「それは、ギルドの緊急用『帰還の水晶』だ。起動まであと十秒……それまで、私が時間を稼ぐ」
「だめ……です……! 一人用の、水晶じゃ……レオンさんが!」
レイはひしゃげた右手を必死に動かし、レオンの服の裾を掴もうとした。
しかし、レオンはその手を優しく、だが力強く振り払った。
「私の分はない。……それに、このボロボロの身体では、もうあの地上には戻れんさ」
レオンは血に濡れた細剣を、真横にスッと構えた。
その立ち姿は、かつてギルムの裏手でレイに剣の基礎を教えた時と、何一つ変わらないほどに美しく、洗練されていた。
「レイ。お前がいつか、あの男のような『盾と矛』になる日を、楽しみにしているぞ」
帰還の水晶が、眩い光を放ち始める。
空間が歪み、レイの身体が地上へと引き上げられていく。
「レオンさんッ! レオンさァァァァァンッ!!」
レイの絶叫が迷宮に響く中、最後に彼の視界に焼き付いたのは。
無数の異形の顎に向かって、自らの命を燃やし尽くすような極光の刺突を放ちながら、深淵の闇へと一人呑み込まれていく、美しき師の誇り高き背中だった。
最後まで『大剣の冒険者』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
恩人であり師であるレオンの、命を燃やした最後の輝き。絶望の底で描かれた彼の気高き散り際が、少しでも皆様の心に響くものであれば幸いです。
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残されたレイがこの悲しみをどう乗り越えていくのか、皆様からの応援が次なる展開を描き続けるための最大の原動力となります。どうぞよろしくお願いいたします。




