第六十五章:鉄塊の悲鳴と、剥がれ落ちる命
――ドガァァァンッ!!
暗黒の迷宮に、幾度目かの破壊音が空しく響き渡る。
レイの放った渾身の一撃が、三匹の異形をまとめて粉砕した。
しかし、飛び散った肉片は地面の粘液と混ざり合い、数秒後には再び新たな『顎』を形成して這い寄ってくる。
「はぁっ、はぁっ……、がはっ……!」
レイの全身は、すでに自らの血と魔物の体液でどす黒く染まっていた。
肺に吸い込む空気すらもが焼けた鉄と腐肉の悪臭に満ち、呼吸をするたびに喉の奥が焼け爛れるように痛む。
迷宮そのものが彼の魔力と生命力を容赦なく削り取っているのだ。
――ジュッ。
「がっ……!?」
死角から伸びた赤黒い触手が、レイの左ふくらはぎをかすめた。
強酸の粘液が布を溶かし、皮膚を焼き、筋肉の繊維を容赦なく侵食していく。
激痛に視界が白く明滅し、完璧だったはずの足元の軸がわずかにブレた。
その一瞬の隙を、迷宮の悪意は見逃さなかった。
「ガ、ピィィィッ!」
頭上から降り注いだ別の異形が、レイの左肩にその巨大な顎を深く突き立てた。
「あァァァァァッ!!」
肉と骨が砕かれる生々しい音。
レイは大剣の柄を右手に持ち替え、自らの肩を噛む異形の胴体を遠心力で強引に叩き斬った。
だが、切り離された顎の部分だけが肩に食い込んだまま、強酸を吐き出しながら肉を溶かし続けている。
レイは歯を食いしばり、自らの肩からその顎を強引に引き剥がした。
血肉が飛び散り、ぽっかりと空いた傷口からは、彼自身の命の光が青白い粒子となって空間に吸い取られていく。
(アレンさんたちは……もう、出口に着いただろうか)
薄れゆく意識の中で、レイはただそれだけを考えていた。
圧倒的な質量を誇った大剣の刃も、異形の酸と硬い骨を断ち続けたことで無惨に刃こぼれし、今はひしゃげた歪な鉄屑に成り下がろうとしている。
何度潰しても蘇る不死の怪物たち。
削り取られていく己の命。
ついに出血と激痛にレイの右足が限界を迎え、彼は粘つく床の上にゆっくりと膝をついた。
ズズ……、ジュル……。
無数の顎が、動けなくなった獲物を囲むようにじりじりと距離を詰めてくる。
暗闇に浮かぶその歪な輪郭が、まるで歓喜に歪んでいるように見えた。
「……ごめん、レオンさん……。約束、守れそうにないや……」
潰れた手のひらから大剣が滑り落ち、ごとり、と重く悲痛な音を立てて床に沈んだ。
暗黒が少年の身体を完全に飲み込もうと、無数の触手と牙を一斉に突き出してくる。
絶対的な絶望の底で、若き大剣使いの瞳から、ついに光が失われようとしていた。
最後まで『大剣の冒険者』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
仲間を護るため、文字通りその身を削りながら絶望の底で戦い抜いたレイの姿を描かせていただきました。残酷で悲しい展開となりましたが、この泥臭い犠牲の果てに何が残るのか、少しでも皆様の心に響くものがあれば幸いです。
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