第五十八章:かつての背中、今の自分
「よく……よく戻ってきてくれた!」
ギルドの責任者は、レイの両肩をがっしりと掴み、声を詰まらせた。
周囲の冒険者たちからも、驚愕の後に、どこか救いを求めるような視線が集まる。
かつて未熟者と嘲笑されていた少年は、いまやその立ち姿だけで、絶望に満ちたギルドに微かな希望を灯していた。
「詳しい状況を教えてください。魔物の活性化の原因は分かっているんですか?」
レイの冷静な問いかけに、責任者は重々しく首を振った。
「いや、根本的な原因は分かっていない。ただ、二日前から廃鉱山の深部に潜んでいたはずの凶悪な魔物どもが、まるで何かに怯え、押し出されるようにして大挙して麓へ下りてきているんだ」
「廃鉱山……」
レイがかつて、一人で泥をすすりながら大剣を振り回していた、あの始まりの場所だ。
「特に問題なのは、かつて防衛線を崩壊寸前まで追い込んだ『轟雷の牙』の同族と思われる巨大な個体がおる。……そして昨日、その化け物の突進を食い止めるために前線に立ったのが、レオンだ」
「っ、レオンさんが……!?」
レイの身体が、一瞬で引き締まる。
「レオンは若い連中を街へ逃がすため、一人でその細剣を振るって時間を稼いだ。……奴の突進を僅かに遅らせることには成功したが、いまはギルムの救護所で意識不明の重体だ。神官たちが総出で治療に当たっているが、今も峠を彷徨っている……!」
責任者の言葉が、レイの胸を激しく締め付ける。
あの、誰よりも速く、鋭かったレオンさんの細剣が、そこまでの傷を負うなんて。
「レイ……」
シェリアが心配そうに、レイの衣服の袖をそっと引いた。
アレンもまた、いつになく真剣な表情でレイの背中を見つめ、ボルグは大盾を握る拳にギュッと力を込める。
(レオンさん……僕を見ていてください。あなたが教えてくれたことが、間違っていなかったと証明します)
レイは奥歯を噛み締め、溢れそうになる感情を、静かな闘志へと昇華させた。
今度は、自分がレオンさんを、そしてこの街を護る番だ。
ルミナスの地で仲間と共に磨き上げ、限界を越えて掴み取った『質量の真髄』。そのすべてを、あの化け物に叩きつける。
「アレンさん、ボルグさん、シェリアさん。……行きましょう」
「応とも。あんたの恩人が命懸けで護ったものを、これ以上一枚の鱗たりとも傷つけさせやしないぜ」
アレンが不敵に、しかし怒りを秘めた笑みを浮かべる。
かつての恩義と、仲間との絆を背負い、若き大剣使いは、かつてないほどに鋭く、速度を上げて防衛線の最前線へと向かって走り出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
レオンさんの窮地を知り、レイたちの総力戦が幕を開けます。
ルミナスで得た『質量』と仲間との絆が、轟雷の牙をどう圧倒するのか。
これからの決戦の展開も、ぜひ応援していただけると嬉しいです!
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