第五十九章:防衛線の鳴動
ギルムの東門を飛び出した一行は、乾いた砂塵を巻き上げながら最前線へと急行していた。
遠くからでも地響きのような重低音が鳴り響き、大気がびりびりと震えているのが肌に伝わってくる。
防衛線のすぐ手前まで来ると、数人の負傷した冒険者たちが、お互いを肩で支え合いながら街の方へと退却してくる姿が目に入った。
誰もが恐怖に顔を歪め、後ろを振り返ることすら怯えている。
「おい、この振動……ただの群れじゃねえぞ。化け物どもの本隊がすぐそこに迫ってやがる!」
ボルグが新調した大盾の裏側を拳で叩き、闘志を剥き出しにしながら速度を上げた。
アレンも双剣を抜き放ち、いつでも跳べるように低い姿勢を維持して走る。
「レイ、前方に強烈な熱源と魔力(MP)の波動を感知しました。……間違いありません。防衛線を文字通り踏み潰しながら突き進んでくる巨躯がいます!」
シェリアは走りながら魔導銃の機関部に手を添え、新調された純白の結晶に魔力を送り込む。
その琥珀色の瞳は、かつて荒野で迷っていた頃の脆さを完全に削ぎ落とし、冷徹な射手としての輝きを放っていた。
「……見えた」
レイの視線の先、立ち込める砂煙の向こう側から、青白い電撃を全身に纏った巨大な影が姿を現した。
全身を強固な灰色の鱗で覆い、頭部から二本のねじれた巨角を生やした四足獣――「轟雷の牙」。
かつてギルムの廃鉱山で出会った個体よりもさらに一回り大きく、その足が石畳や土を叩くたびに、バチバチと激しい火花が周囲に飛び散る。
その圧倒的な質量と暴力的なまでの破壊力を前に、周囲の防護柵はまるで紙細工のように粉砕されていた。
(あの巨躯、あの速度……レオンさんは、これを一人で止めようとしたんだ)
レイは走りながら、背中の武骨な大剣の柄に右手をかけた。
かつて、レオンさんの鋭い細剣が切り拓いてくれた道を、必死に大剣を振り回して追いかけていた自分の姿が脳裏をよぎる。
あの頃はただ、重さに振り回されるだけだった。
だが、今の自分は違う。
「ボルグさん、正面から奴の突進の軌道を削ってください! アレンさんは左、シェリアさんは後方から奴の視界を奪う!」
レイの声に、一切の迷いはなかった。
「任せろ! ギルムの化け物に、ルミナスの盾の硬さを見せてやる!」
「行くぜ、大剣使い!」
仲間たちが一斉に散り、巨獣の死角へと回り込んでいく。
レオンさんが命懸けで繋いだ防衛線の最後の一線を背負い、新星の大剣使いは全身の軸を極限まで硬く締め上げ、迫り来る轟雷の嵐へと真っ向から踏み込んだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに因縁の魔物「轟雷の牙」と対峙したレイたち。
レオンさんが護ろうとしたこの街の防衛線で、大きく成長した四人の総力戦が始まります。
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