第四十三章:亜麻色の銃士
「おい、レイ! その子をとりあえず岩陰に運ぶぞ!」
アレンの緊迫した声に、レイはハッと我に返った。
腕の中の少女は、完全に意識を失っている。背負った魔導銃の金属的な冷たさが、レイの腕を通じて伝わってきた。
ボルグが手際よく、照りつける陽光を遮るような巨岩の影を見つけ、そこに外套を敷く。
レイは少女をゆっくりと横たえ、自身の水袋から水を数滴、彼女の乾いた唇に垂らした。
「……ひどい脱水症状だな。この荒野を、まともな補給もなしに彷徨っていたのか?」
ボルグが彼女の様子を覗き込みながら、痛ましそうに眉をひそめる。
アレンもまた、彼女の傍らに置かれた魔導銃を興味深そうに値踏みしていた。
「この銃の造り、ルミナスのものじゃないな。もっと北の……魔導技術が進んだ大国のものだ。そんな場所の銃士が、なぜこんな国境の荒野に一人でいる?」
「う……ん…………」
二人が言葉を交わしていると、少女の長い睫毛が微かに震え、ゆっくりと瞼が開かれた。
現れたのは、深い湖の底を思わせるような、澄んだ琥珀色の瞳だった。
「気が付きましたか? 無理に動かないでください。まだ体が冷え切っています」
レイが穏やかに声をかけると、少女はぼんやりとした視線を彼に向け、それから自分の状況を把握したように、急に顔を強張らせて身を起こそうとした。
「あ、あなたたちは……! 私の、魔導銃は――」
「落ち着けって。銃ならそこにある。俺たちは怪しい奴じゃない、ルミナスの冒険者だ」
アレンが両手を挙げて敵意がないことを示すと、少女は自身の横に置かれた愛銃を抱き締め、ようやく小さく息を吐き出した。
しかし、その警戒の光が完全に消えたわけではない。
「私は……シェリア。この先の国境を越えて、ある『探し物』のためにルミナスを目指していました。ですが、途中で例の覇竜に遭遇してしまい……」
シェリアと名乗った少女は、悔しそうに唇を噛んだ。
「私の魔導銃の威力なら、足止めくらいはできるはずだった。でも、この流れる砂のせいで、全く照準が定まらなくて……。恥ずかしながら、弾を撃ち尽くして逃げ回るのが精一杯だったのです」
彼女の言葉を聞き、レイは深く納得した。
この砂塵の荒野は、大剣の踏み込みだけでなく、精密な射撃を行う銃士にとっても最悪の環境だったのだ。
「そんな化け物からよく生きて逃げ延びたよ。……で、その化け物を真っ向から叩き潰したのが、そこにいる大剣使いのレイだ」
アレンが親指でレイを指すと、シェリアは再び驚愕の眼差しをレイへと向けた。
身の丈を超えるほどに無骨な、血と砂に汚れた鉄塊。
それを背負う少年が、自分を窮地に追い込んだあの覇王を討ち取ったという事実が、未だに信じられないようだった。
「あなたが……。ただ重いだけの武器だと思っていましたが……この流砂の上で、それだけの質量を扱えるなんて」
シェリアの琥珀色の瞳に、これまでの警戒とは違う、純粋な驚きと、どこか射手としての知性的な好奇心が混ざり合っていく。
新たな同行者、そして異なる武器の使い手との出会い。
レイの旅路に、これまでとは違う、新しくも確かな風が吹き込み始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
謎の魔導銃士「シェリア」が登場し、物語はさらに賑やかになっていきます。
大剣と魔導銃、全く異なる武器を持つ二人がどんな連携を見せるのか、これからの展開も応援していただけると嬉しいです。
「続きが気になる!」
「シェリアちゃん、これからどうなるの?」
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それでは、また次回の更新でお会いしましょう!




