第四十二章:砂塵の向こうの迷い人
激闘の余韻が残る赤茶色の荒野。
崩れ落ちた『砂塵の覇竜』の巨体の傍らで、レイはようやくまともな息を吐き出すことができていた。
両腕の震えは止まらない。しかし、傷ついたアレンをボルグが肩を貸して引き起こすのを見て、心の底から安堵が広がっていく。
「……本当に、信じられねえよ」
アレンは脇腹を押さえ、痛みに顔を歪めながらも、感嘆の入り混じった苦笑いをレイに向けた。
「あの覇竜を、真っ向からの質量で叩き伏せるなんてな。
お前、本当にただの人間か?」
「僕一人じゃ、最初の突進で押し潰されていましたよ」
レイは大剣をゆっくりと背中の鞘へ収め、潰れた手のひらの血を拭った。
その時だった。
サラサラと流れる砂の音に混じって、かすかな金属の擦れ合う音が、風の向こうから聞こえてきた。
魔物の足音ではない。もっと不規則で、ひどく体力を消耗した人間の足取り。
「……誰か、来る?」
ボルグがすぐさま大盾を構え直し、アレンも鋭い視線を砂煙の奥へと向ける。
レイもまた、再び大剣の柄に手をかけ、全神経を集中させた。
霧が晴れるように砂煙が薄くなったその向こうから、一人の少女が、よろめきながら姿を現した。
「はぁ、はぁ……っ、うそ、覇竜が……倒れて……?」
少女は、砂にまみれた不格好な旅装束を纏っていた。
その背中には、彼女の細い体躯にはおよそ似つかわしくない、一丁の無骨な『魔導銃』が背負われている。
ルミナスの洗練された装備とも、ギルムの無骨な武具とも違う、異国の精緻な紋様が刻まれた銃だった。
彼女の美しい亜麻色の髪は砂風に乱れ、その端正な顔立ちは極限の疲労で真っ白に染まっている。
何者かから必死に逃げてきたのか、あるいは何かを追ってこの荒野の深部まで迷い込んでしまったのか。
少女は、倒れた覇竜の巨体と、その前に立つレイの姿を交互に見つめ、信じられないものを見るようにその丸い瞳を大きく見開いた。
「あなたが……この化け物を、一人で……?」
「あ、いや、僕たち三人で戦ったんです。……君は、一体?」
レイが一歩踏み出し、声をかけようとしたその瞬間。
少女の緊張の糸が完全に切れたかのように、彼女の身体がふわりと前に傾いた。
「あ……」
小さな声を残し、少女は赤砂の上へと力なく倒れ込んでいく。
レイは咄嗟に駆け寄り、流れる砂に沈む直前の彼女の身体を受け止めた。
腕の中に残る、驚くほどの軽さと、かすかな熱。
砂塵の荒野の決着の地に現れた、魔導銃を背負う謎の少女。
新星の大剣使いの旅路に、新たな運命の風が吹き込もうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
新しいキャラクターの登場で、レイの旅はさらに賑やかに、そして予測不能な方向へと動き出します!
これからの展開も応援していただけると嬉しいです。
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