第三十八章:流砂の理
――地響きが、レイの足の裏を激しく揺さぶる。
「岩甲の砂蜥蜴」の巨体は、一歩進むごとに周囲の赤砂を爆発でもしたかのように巻き上げていた。
その頭部は文字通り岩の塊であり、まともに激突すれば、防具ごと肉体を粉砕されることは容易に想像がついた。
「おおおおおっ!」
ボルグが咆哮とともに前へ出た。
大盾を傾け、砂蜥蜴の突進のベクトルをわずかに受け流す。
完全に止めることはできずとも、ボルグの命懸けの盾受け(ブロック)によって、魔物の直線的な突進軸がほんの一瞬、右へとブレた。
アレンの双剣が、すれ違いざまに砂蜥蜴の脚の関節を鋭く切り裂く。
流麗な連携。しかし、岩のような鱗に覆われた魔物は、肉を削られながらもその勢いを殺さない。
ブレた軌道の先――そこには、大剣を構えたレイが待っていた。
(足場が流れる……!)
いざ踏み込もうとした瞬間、レイの右足がサラサラと崩れる赤砂に深く沈み込んだ。
いつものように地面を蹴れば、力が砂に吸収され、大剣の重さに身体が振り回されてしまう。
一瞬の判断。
レイは、無理に地面を蹴るのをやめた。
あえて沈む足に体重のすべてを預け、砂の底にある硬い岩盤を捉えるように、身体の重心をさらに低く落とす。
頭のてっぺんから、砂の底まで、一本の芯を通す。
大地を蹴るのではなく、流れる砂の動きに己の肉体を同調させ、大剣の自重が落下するエネルギーと一体になる。
「ふっ……!」
引き付け――当たる、その一瞬。
――ドガァァァァァンッ!!!
渓谷に、今日一番の質量兵器同士の激突音が炸裂した。
レイの放った大剣は、砂蜥蜴の硬質な額へと真っ向から突き刺さっていた。
いや、突き刺さったのではない。圧倒的な重圧が、魔物の頑強な頭骨を内側から爆破するように叩き潰したのだ。
「ガ、ァ……ッ!?」
砂蜥蜴は短い絶叫を上げ、その巨体を激しく前のめりにさせながら、砂煙の中に沈み込んだ。
ズズズ、と巨体が砂を押し分けながら滑り、レイのすぐ足元で完全に物言わぬ肉塊へと変わる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
レイは大剣の刃を砂から引き抜き、静かに息を整えた。
靴の中まで砂まみれだったが、その立ち姿は不思議なほどに安定していた。
不安定な足場だからこそ、全身の力を抜き、重心の真下で質量を制御する。
ギルムの廃鉱山、ルミナスの濃霧。そしてこの砂塵の荒野。
戦う環境が変わるたび、レイの大剣は、より深く、より鋭く、その本質を研ぎ澄まされていく。
「……大したもんだ。流れる砂の上で、これだけの威力を出せる奴なんて、俺は他に知らねえよ」
アレンが双剣を収めながら、心底感心したように笑った。
ボルグもまた、大盾についた砂を払いながら、頼もしそうにレイの背中を見つめている。
しかし、彼らの安堵は長くは続かなかった。
砂蜥蜴が倒れたことで巻き上がった砂煙の向こう――荒野のさらに奥地から、これまでとは明らかに質の違う、不気味で圧倒的な『圧』が、風に乗って押し寄せてきたからだ。
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