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大剣の冒険者 〜不格好な刃が紡ぐ英雄譚〜  作者: beck2026
第三部 〜凍てつく血肉の霊峰と、旧魔の冒涜〜

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第一〇七話:腐肉の胎内と、剥き出しの悲鳴

砕け散った黒門を越え、遺跡の内部へと足を踏み入れた四人を待っていたのは、極寒の吹雪とは正反対の、ひどく生温かく湿った空気だった。

 

「……なによ、ここ。本当に建造物の中なの?」

 

シェリアが魔導銃の先に取り付けたライトで周囲を照らし、嫌悪に顔を歪めた。

照らし出された通路は、石やレンガで造られたものではなかった。壁も、床も、天井も、すべてが巨大な生物の胃袋の中のように赤黒い『肉』で構成されていたのだ。ドクドクと不気味に脈打つ血管のような管が網の目のように張り巡らされ、足を踏み出すたびに、ズチュ、と粘着質な音を立てて肉の床が沈み込む。

 

むせ返るような血の匂いと、強い酸の臭い。

千年前に滅びたはずの旧魔帝国遺跡は、遺跡などではなく、今なお稼働し続ける『巨大な生体工場』だった。

 

「気をつけて歩けよ。床から急に消化液でも噴き出してきそうな悪趣味さだぜ」

アレンが双剣の刃で壁の肉を軽く突くと、壁はビクンと痙攣し、傷口からどす黒い体液を流した。

 

シロは青ざめながらも、レイの外套の裾をしっかりと握りしめ、必死にその背中についていく。

 

肉の回廊をしばらく進むと、開けた巨大な空間に出た。

そこには、天井から吊り下げられた無数の巨大な透明の培養槽が、青白い光を放ちながら整然と並んでいた。

 

「……嘘でしょ。これ、全部……」

 

培養槽の中を見て、シェリアが口元を押さえた。

濁った緑色の液体の中に浮かんでいたのは、人間、エルフ、獣人といった様々な種族の男女だった。だが、彼らの姿はあまりにも無惨だった。

全員が全裸で、胸から下腹部にかけてY字に大きく切り裂かれている。そして、本来内臓があるべき空洞には、ソフトボール大の赤黒く脈打つ『人工の迷宮核(コア)』が強引に縫い込まれていたのだ。

 

彼らの目からは光が失われているが、ガラス越しに微かに口が動き、絶え間なく泡を吐き出している。生きているのだ。生きたまま臓器を抜かれ、魔力発生源である人工コアを強制的に適合させるための『苗床』にされている。

 

「ザルバの地下闘技場で作られていた未完成の核……その完成品を造るための、ここが本命の工場ってわけか」

アレンがギリッと奥歯を噛み鳴らす。

 

「ア、ァァ……ッ」

 

その時、近くの培養槽の中で、一人の獣人の少年の身体が激しく痙攣し始めた。

埋め込まれた人工コアの異常な魔力圧力に肉体が耐えきれず、少年の皮膚の下で血管が次々と破裂していく。眼球が血走って弾け飛び、口からは大量の血反吐が培養液の中にぶちまけられた。

 

『ピピッ……検体番号七一四番、適合失敗。細胞崩壊を確認。廃棄プロセスへ移行します』

 

無機質な魔法音声が空間に響いた直後、少年の入っていた培養槽の底が開き、ドロドロに溶けかかった彼の身体が、床下で稼働する巨大な鉄の粉砕機(ミキサー)へと容赦なく落とされた。

 

グチャグチャグチャッ!!

 

骨と肉がすり潰される凄惨な音が響き、粉砕機から溢れ出した血肉のペーストが、床の溝を通って遺跡のさらに奥へと流れていく。新しい『素材』の栄養分として再利用されるのだ。

 

「ひっ……!」

シロが悲鳴を上げそうになるのを、レイがその小さな頭を抱き寄せて自らの胸に押し付けた。

 

「見なくていい、シロ」

 

レイの声は、これまでで一番低く、そして冷酷な怒りに震えていた。

背中の『封魔の黒鋼』を抜くレイの手に、ギリギリと筋が浮かび上がる。

 

『――侵入者を感知。生体防衛機構(セキュリティ)を起動。廃棄予定の失敗作を起動します』

 

空間全体に警報が鳴り響き、周囲の培養槽から一斉に液体が抜かれた。

ガラスが割れ、中から飛び出してきたのは、コアの適合に失敗し、肉体が悍ましく変異した『失敗作』たちだった。

 

肋骨が皮膚を突き破ってカマキリの刃のようになった女。

脳蓋が弾け飛び、脳髄の代わりに赤黒い触手が蠢いている男。

彼らはもはや自我すら失い、埋め込まれたコアに操られるまま、ただの肉の殺戮兵器として四人へと襲いかかってきた。

 

「チッ、どいつもこいつも、死体を弄ばなきゃ気が済まねえのかこの遺跡は!」

アレンが双剣を構え、シェリアが魔導銃の引き金を引く。

 

だが、レイの行動は彼らよりも圧倒的に早かった。

「退けッ!!」

 

レイは猛然と踏み込み、先頭の異形の胴体へ向けて黒鋼を横薙ぎに一閃した。

 

――ドガァァァァァァァァンッ!!

 

ただの斬撃ではない。怒りを乗せた理不尽なまでの圧倒的質量。

異形の胴体ごと、背後にあった分厚いガラスの培養槽、さらにその奥の肉の壁面までが、レイの一撃でまとめて粉砕され、赤い肉片とガラスの雨となって吹き飛んだ。

 

「安らかに眠れ。……お前たちをこんな風に弄んだ元凶は、僕が必ず肉片一つ残さず叩き潰してやる」

 

返り血で顔を赤く染めたレイは、迫り来る数十体の異形たちを前に、一切の容赦なく大剣を振り上げた。

血と消化液の臭いが充満する肉の胎内で、狂気の防衛機構との死闘が火蓋を切った。

最後まで『大剣の冒険者 第三部 〜凍てつく血肉の霊峰と、旧魔の冒涜〜』をお読みいただき、誠にありがとうございました。

遺跡内部の悍ましい「生体工場」の光景と、生きたまま苗床にされる人々の絶望、そしてそれに激怒するレイの姿を描かせていただきました。限界までダークな世界観の中で、レイの圧倒的な力によるカタルシスを強調しています。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

次々と襲い来る失敗作たちを前に、レイたちはどう突破していくのか。皆様からの応援が物語を描き続けるための最大の原動力となります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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