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大剣の冒険者 〜不格好な刃が紡ぐ英雄譚〜  作者: beck2026
第三部 〜凍てつく血肉の霊峰と、旧魔の冒涜〜

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第一〇四話:嘆きの肉壁と、血に塗れた咆哮

「ガ、ァァ、ァ……ッ!」

 

全高五メートルを超える『肉の巨人』が、無数の顔面から同時に絶望の呻き声を上げながら、レイに向かって巨大な腕を振り下ろした。

それは数十人分の人間の腕が不規則に絡み合い、骨と筋肉が強引に融合して作られた、悍ましい肉の鈍器だった。

 

「レイッ!」

 

シェリアの悲鳴が猛吹雪を切り裂く。

だが、レイは回避を試みることすらなく、両足を深く雪に沈めて腰を落とし、『封魔の黒鋼』の大剣を盾のように頭上へと掲げた。

 

――ドゴォォォォォォォォンッ!!!

 

肉の鈍器と黒鋼が激突し、凄まじい衝撃波が雪原の雪をクレーター状に吹き飛ばした。

レイの足元の永久凍土が悲鳴を上げてひび割れる。頭上からのしかかるのは、純粋な物理的重量に加えて、死体たちを強引に結合させている旧魔帝国の異常な魔力圧力だ。

 

「……重いッ」

 

レイの分厚い筋肉が軋みを上げ、口端から一筋の血が流れ落ちる。

黒鋼の刀身と肉の腕が拮抗するその僅かな隙間から、巨人を構成する村人たちの顔が、ギョロリとレイを見下ろした。

 

『イタイ』『タスケテ』『ナンデ、ワタシタチガ』

 

半分潰れた顔、眼球の抜け落ちた顔、幼い子供の顔。彼らが涙と血の混じった黒い液体を流しながら、レイに向けて救いを求めるように囁きかけてくる。

死者の悲痛な哀願。それは、心を持つ人間にとっては何よりも精神を削り取る、最悪の心理攻撃だった。

 

「ヒャハハハ! どうした大剣使い! お前は弱い者を助ける正義の冒険者なのだろう? ならばその哀れな村人たちの顔を、お前の手で叩き潰せるのかァッ!?」

 

安全な距離から黒衣の男が嘲笑う。

シロが耳を塞ぎ、あまりの惨状に過呼吸を起こして雪の上にうずくまった。

 

「……正義の冒険者?」

 

レイは頭上から降り注ぐ死者たちの血と汚汁を全身に浴びながら、低く、地を這うような声で呟いた。

 

「ふざけるな。……僕はただ、お前のような外道が、息を吸って吐いていることすら我慢ならないだけだッ!!」

 

レイの瞳に、限界を越えたどす黒い怒りの炎が灯った。

同情や躊躇いなど一切ない。彼らをこれ以上、この狂った術者の慰み者にさせないための、絶対的な『破壊』の意志。

 

「う、おおおおおおおおおおおッ!!」

 

レイは全身の筋繊維を爆発させ、頭上の肉の鈍器を黒鋼で強引に跳ね除けた。

巨人の体勢が一瞬崩れた、その隙を逃さない。

 

「アレン! シェリア! あの肉ダルマの足を止めろ!」

「言われなくてもッ!」

「吹き飛べェッ!」

 

右腕を負傷したアレンが雪を蹴って巨人の背後へと回り込み、双剣で巨人のアキレス腱にあたる部分の筋繊維を深く斬り裂く。同時に、シェリアの魔導銃から放たれた『灼熱弾』が巨人の膝関節に直撃し、肉が焦げ、ドス黒い脂が爆発的に弾け飛んだ。

 

「ガ、ァ、アァァァァッ!!」

 

巨人がバランスを崩し、その巨大な胸部――赤黒く脈打つ核(コア)が、レイの目の前へと無防備に晒される。

 

「これで、終わりだッ!」

 

レイは雪原を蹴り上げ、巨人の胸元へと一直線に跳躍した。

振りかぶった黒鋼の切っ先が、巨人の胸部を守る分厚い肉の壁――村人たちの死体が密集した部位へと叩き込まれる。

 

――メチャクチャァァァァァッ!!!

 

肉を断ち切り、骨を砕き、臓物をすり潰す凄惨な感触がレイの両腕に伝わる。

レイは巨人の身体から噴き出す凄まじい量の血と消化液のシャワーを頭から浴びながら、真っ赤に染まった鬼神の如き形相で、大剣をさらに深く、深くへとねじ込んでいく。

 

「そこを……退けェッ!!」

 

レイの咆哮と共に黒鋼の理不尽な質量が肉の壁を完全に貫通し、ついにその切っ先が、巨人の心臓部である『赤黒い魔石』へと到達した。

 

「なっ……馬鹿な!? あの魔力圧縮された肉の装甲を、純粋な腕力だけで突破しただと……!?」

 

黒衣の男の嘲笑が、初めて驚愕へと変わる。

 

「砕け散れッ!!」

 

レイが柄を渾身の力で捻り込んだ瞬間、魔力を打ち消す黒鋼の特性が、巨大な魔石を内側から完全に粉砕した。

パキィィィンッ! という甲高い音と共に、肉の巨人を縛り付けていた旧魔帝国の術式が崩壊する。

 

「アァ……」「……アリ、ガ……トウ……」

 

最後に、呪縛から解放された村人たちの微かな安堵の声が響いた気がした。

次の瞬間、全高五メートルの肉の巨人はただの腐肉の塊と化し、凄まじい血の津波を巻き起こしながら、ズゴォォォォンッ! と雪原へと崩れ落ちた。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

血の海の中心で、全身を赤黒く染め上げたレイが、ゆっくりと黒鋼を肩に担ぎ直す。

彼から滴り落ちる生暖かい血が、足元の雪を次々と溶かしていく。

 

レイは血に濡れた前髪の隙間から、絶対的な殺意を込めた眼差しを、広場の奥で後ずさる黒衣の男へと真っ直ぐに向けた。

 

「次はお前だ、死体泥棒」

最後まで『大剣の冒険者 第三部 〜凍てつく血肉の霊峰と、旧魔の冒涜〜』をお読みいただき、誠にありがとうございました。

死者の顔と声を使った精神攻撃にも屈せず、返り血を浴びながら肉の巨人を粉砕するレイの死闘を描かせていただきました。限界までダークで血みどろの展開を突き詰めています。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

巨人を打ち倒したレイの怒りの刃は、いよいよ狂気の術者へと向けられます。皆様からの応援が物語を描き続けるための最大の原動力となります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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