3-1 庇護 守られていると思っていた
結局、この日の終業時刻までかかっても、課題を終わらせることはできなかった。理由は明白だ。Qが求める「正解」を、どうしても口にすることができなかったからだ。Qが提示する、『同盟』やシティでのモラルをなぞれば済む話なのに、喉の奥で言葉がつかえてしまう。
連休明けには、管理者からの呼び出しが待っていることだろう。これでもう三回目だ。琥珀の耳に入れば、また煩く言われることは分かりきっていた。つきっきりになって指導しようとするだろう。それだけはなんとしてでも回避したかったが、この分ではそれは難しいことのように思えた。
募る憂鬱を振り払うように、外部端末から青鸞に連絡する。せめて休暇の間だけでも、この息苦しさから逃れたかった。
すぐに返信があった。彼は自室にいるという。
青鸞の部屋がある南寮は、訪れるたびに僕を緊張させる。無機質な一般寮とは対照的な、重厚な調度品や装飾。それらが価値を持つのと同じように、ここで生活する生徒たちも「価値が高い」のだと、暗に示しているように思えた。
エレベータホールで壁に身を寄せていると、見知った集団がこちらへ向かってくるのが見えた。石英とその取り巻きたちだ。
この学園の生徒たちの大半は、いつも決まったメンバー数人で固まって行動することが多い。
僕はどのグループからも外れている。僕のような生徒が全くいないというわけではなかったが、わずかであることには違いなかった。
まれにグループに混じって話をしていると、僕以外の声の高さや笑うタイミングがぴったりと揃っていることに気づくことがある。話の脈絡やその場の空気が突如変調したかのように思えるときもあった。
この、シティ出身の生徒たちの独特の間や文脈に、僕はなかなか慣れることができない。
とはいえ、どのグループにも居場所がない僕に対して不親切というわけでもない。積極的に話しかけてくる人は少ないが、僕から声をかけると大体は快く対応してくれた。そのようにするのがあらかじめ決められているかのように、当たり前に善良で親切な人たちばかりだった。
ただ、石英たちだけは違った。
所謂シティのハイソサエティ層で構成された石英たちの集団は、僕を見つけるなりそれまでの話題を止めて一斉に口を閉じてこちらを一瞥した。しかし、すぐに何もなかったというように仲間とまた話し始める。
積極的な無視ではない。ただ、僕のことをこの場にいるはずのない異物として認識しているような振る舞いをする。
いちいち気にするほどのことではないが、石英はなるべく顔を合わせたくない相手ではあった。
後ろから、もうひとつ足音がした。
現れたのは、最上級生で監督生の瑪瑙だ。こちらへ歩いてきて僕の隣に並ぶ。
「やァ、鶉。青鸞の所へ行くのかい?」
「うん。休暇の過ごし方について相談しようと思って」
「それはいいね。どのクラブも催しを準備しているようだから、色々と回ってみるといい」
瑪瑙は琥珀と親しいらしく、弟である僕のことも日頃から何かと気にかけてくれている。
同じフロアに部屋がある誼みなのか、青鸞ともそれなりに交流があるらしかった。




