2-2 偏差 それが違うと気づいたのは、理由のない違和感からだった
僕たちの暮らしはシティに比べ、劣っているものだっただろうか。
僕は、遠くの、山に抱かれ神様に守られていた故郷の風景を思い出す。
丘陵な斜面に張り付くように作られた棚田に流れ込む、山が蓄えた冷たく澄んだ水を。
山へと降り注ぐ雨を受け止める深い森を。
地面を焦がすような太陽から僕たちを匿い、幾重にも重なって影を落とす木々を。
風に吹かれさらさらと波打つ金色の穂を。
泥に塗れて引き抜く根菜の濃い土の匂いを。
獣を解体する時の生暖かい手触りと金属的で生臭い匂いを。
鍋から立ち上る湯気に混じった香草や脂の匂いを。
肉を焦がす香ばしい薫りを。
それらはひとつも学園の食卓のトレイの上にはない。似た形のものはあっても、全く同じものは存在ない。そう確認してから、僕はようやく息を吐く。
僕には、効率的で衛生的で平等で、誰も傷つけることのない食事こそが、平坦な模造品のように思えるのだ。
模範解答は分かっている。
けれど、それを言ってしまうと、どちらかが嘘になってしまうように思えた。
苦い記憶が蘇る。
入学して間もない頃、同級生たちと連れ立って上級食堂へ行った時のことだ。
上級食堂は特別棟に併設され、一般生徒には些か足を踏み入れづらい立地にあった。日頃は取り巻きたちに囲まれている石英が、その日は気まぐれに一般寮生たちを上級食堂での食事に誘ったのだ。パウチやチューブ入りの食事に辟易としていた僕は、嬉々としてそれに同行した。
けれど、『高級なディッシュが出る』と聞いて大いに期待していた僕の前に置かれたのは、人工食品を3Dプリンターで精巧な形に出力しただけの固形物だった。
本物とは程遠いぶよぶよとした食感。噛むと溢れる肉汁や、口の中に広がる脂の旨みもない。堪らなくなって、僕はつい口を滑らせた。
――本物の肉は、もっと繊維があって、血の味がして……
その瞬間、食堂の空気が凍りついたのを覚えている。
けれどそれは一瞬だった。
僕以外のすべての人がすぐに示し合わせたかのように笑顔を作り、全く別の会話を始めたのだ。そうするのがシティのマナーなのだとまだ理解していなかった僕は、その異様な光景に言葉や常識の一切が通じない場所に連れてこられたような底知れぬ恐怖を感じた。
以来、僕は食事についての話題では極力口を噤むよう心がけている。
僕の発言は単なる好みの違いではない。彼らにとって、それは秩序を乱す「野蛮さ」であり、忌避すべきタブーだった。
『出身地や、コミューンでの風習については話さないこと』
入学前に琥珀こはくから受けた忠告が耳の奥で再生される。
特に、食肉や宗教の話はここではあまり歓迎されない。誤解を招きやすいので避けるように、と言われていたのを僕はすっかり忘れていたのだ。
Qのガラス玉のような目が、じっと僕の答えを待っている。
僕は、まだ答えを持っていなかった。




