4章-95.混乱するシナリオの行く末、語られる恋の理由
「ルナリアってば、びっくりしすぎよ!」
「ご、ごめんなさい……」
セフィラに謝りながらも、私の頭は混乱がおさまらなかった。
(ど、どういうことなの……? なんでキリアン卿の名前がここで飛び出してくるの……わ、わけがわからないわ……!)
私は激しく動揺しながらも、なんとか平静を装って彼女に続けて問いかけた。
「あの……キリアン卿の、一体どこが好き……なのかしら?」
「あはは……それを自分から言うのは、ちょっと恥ずかしいけれど……そうね」
彼女は少し照れくさそうに、けれど夢見る少女のように優しく微笑んだ。
「やっぱり、すごく優しいところかな。小さい頃からずっと私のことを見守ってくれたのが、キリアン先生なの。私が聖王国で聖女としての重責に苦しんでいたときも、ずっとそばで支えてくれて……いつも温かく励ましてくれて……いつの間にか、本当に好きになっていたのよね……」
「そう、だったの……」
「かなりの年齢差はあるけれどね。今、私がこうして聖女としての務めを全うしているのも、本当はキリアン先生に認めてもらいたいからなんだ」
そこまで言って、セフィラは少しだけ切なそうに眉を下げた。
「キリアン先生はどう見ても、私をただの子供というか……保護者として大切にしてくれているの。それ自体もすっごく嬉しいのだけど……私は一人の大人の女性として、先生に見てもらいたい!」
セフィラはベッドの上で、自分の胸の前に小さな拳を決意を込めたようにぎゅっと握りしめる。
その言葉や表情には、作られたような嘘偽りは何も感じられなかった。
「いつか、セフィラのその一途な気持ちが彼に届くといいわね……」
その微笑ましい彼女の様子を見つめながら、私は愛おしさを覚えて、彼女の小さな拳を自分の手でそっと包み込んだ。
「ありがとう……ルナリア。……あ、そうだ! ルナリアの方はどうなの? グレンのどんなところが好きなのか教えて!」
「え!?」
今度は自分が質問攻めに合う番だった。
期待に満ちたセフィラの顔を正面から受け止めながらも、私はこれまでの道のりを思い返し、たどたどしくも自身の心を紡ぎ出した。
「私ね、最初は……実の父親から酷い扱いを受けていたの」
「ルナリアが……?」
セフィラは驚いたように顔を曇らせる。
「ええ。だけど、それに真っ先に気づいて私を救い出してくれたのが、グレンとアルだったのよ。そして、救い出してくれただけじゃなく、グレンが……私に婚約を申し込んでくれて……」
「えっ! そんなドラマチックなことがあったの!?」
「グレンの優しさや、私を守ってくれる強さにどんどん惹かれていって……。気づいたときにはもう、自分でも気持ちが抑えきれないくらい、彼のことが大好きになってしまっていたの……」
「きゃー! それって完全に両想いじゃない!」
「そういうことに……なるわね……」
「それじゃあ、将来はグレンと結婚するのよね! いいなー、とっても素敵!」
「結婚……」
セフィラの無邪気な言葉。
もし順調に彼と結婚の運びになるとしたら、それは高等部を卒業した頃になるだろう。
しかし、きっとその未来に、私は存在していない。
「二人の結婚式には、私も絶対に呼んでね! 公務を投げ出してでも、何が何でもお祝いに駆けつけるから!」
「……ありがとう、セフィラ」
私は、胸の奥によぎった寂しさを彼女に決して悟られないよう、いつものように柔らかく微笑み返すのだった。




