4章-94.憧れのパジャマパーティー、意外すぎる恋の矢印
その夜、私の部屋に泊まることになったセフィラ。
昼間のしっかりとした礼装から一転して、清純な白いネグリジェに身を包んだ彼女は、子供のように嬉しそうにベッドの上で何度も跳ねてはしゃいでいた。
「友達のパジャマパーティー……本当に夢みたい!」
彼女のあどけない笑顔を見ていると、私の胸に渦巻いていた緊張も少しだけ和らいでいく。
「それにしても……ルナリアの周りって、格好いい男の人ばかりね!」
不意に放たれた言葉に、私の胸がドキリと大きく跳ね上がった。
「そ、そうかしら……」
「私、普段はあまり同年代の男性と関わる機会がないから余計にそう思うのかもしれないけど……ねえ、ルナリアは実は、誰か好きな人がいたりする?」
「え!?」
あまりにも直球の質問を投げかけられ、心臓が止まりそうになる。
一瞬迷ったけれど、彼女の純粋な瞳を見つめていると、誤魔化すことはできなかった。
「……うん、いるわ……」
「やっぱり! ねえ、恋バナしましょ。女の子の友達と一度でいいから、こういうお話をしたかったの!」
「え、ええ……」
ベッドの上で身を乗り出して楽しそうにはしゃぐ彼女とは対照的に、私の胸の内は不安と緊張で張り裂けそうだった。
主人公である彼女のこれからの返答次第で、私達の未来が決まってしまうかもしれないのだから。
「待って、私に当てさせてみて。ルナリアの好きな人は……グレンでしょ!」
「……っ!」
「だって、さっきの門の前でも甘そうに耳打ちされてたり、ルナリアも顔を真っ赤にして照れてたし……。どう? あってる?」
セフィラはいたずらっぽく小悪魔のように微笑む。
私は込み上げてくる緊張を噛み殺しながら、覚悟を胸に口を開いた。
「うん、私……グレンのことが、好きなの」
「きゃー! 当たってた!」
「……あの、セフィラは、グレンのこと、どう思っている……?」
私は自分の声が震えてしまいそうになるのを必死に堪えながら、本題である問いを彼女に投げかけた。
「え? うーん……格好いいし、すごく優しそうな人だとは思うよ? でも、まだあんまりちゃんとお話ししたことがないから、よく分からないけれど……」
「た、例えば、その……男性的な魅力を、感じたりはしないかしら……?」
少し踏み込んでそう尋ねると、セフィラは一瞬だけきょとんとした顔をした。
それから、ハッとしたように手を口に当てる。
「ルナリア、もしかして……私がグレンのこと好きになっちゃわないか心配してるの?」
「——!」
彼女のあまりにも核心を突いた言葉に、私は頭が真っ白になって固まってしまった。
「もー! 大切な友達の好きな人を横から取るわけないじゃない! というか、そもそも彼のことはまだよく知らないし……それにね」
セフィラは急に声をひそめると、その白い頬を林檎のように可愛らしく染めた。
「私、別に好きな人がいるしね」
「……え!?」
予想だにしなかった彼女の言葉に、私はあまりの衝撃で変な声をあげてしまった。
「もう、ルナリア! そんなに驚かないでよー」
「え、あ、だ、誰だか聞いてもいいのかしら……?」
激しく動揺しながらも、私は彼女の意外な想い人の正体を探るべく言葉を紡ぐ。
グレンではないとなると、ゲームに登場する残りの攻略対象は三人。
この短期間で彼女と関わりが深かった人物とすれば、会話を何度か交わしたヴィルか、無邪気に懐いていたエリオスだろうか。
それとも、屋敷で少しだけ面識を持ったアルだろうか。
私が色々な可能性を頭の中で巡らせていると、セフィラは照れくさそうに指先をいじりながら微笑んだ。
「えへへ……私の好きな人はね……」
私は、固唾をのんで彼女の唇をじっと見つめる。
「……キリアン先生なの」
「えええ!!?」
まさかすぎる攻略対象外の人物の名前がその口から飛び出し、私は今日一番の大声を出してしまった。




