4章-88.聖女の告白、ヴィルの不器用な励まし
とりあえず話をしようということで、私の部屋に集合することになった。
薄水色の美しい髪を揺らすセフィラは、私の隣に座って小さくうつむいている。
部屋全体を包み込む何とも言えない気まずい空気の中、グレンが口を開いた。
「実は、今日の外交は中止となったんだ。聖女が行方不明となり、王宮を挙げてその捜索をすることになったためだ……」
「あはは……だよね。うん、ごめんなさい……」
セフィラは申し訳なさそうにグレンを見上げる。
「ちなみに、私がここにいることは聖王国に……?」
「申し訳ないが、先ほど父上に報告させてもらった。さすがに行方不明となっている他国の聖女を匿えば、重大な外交問題に発展してしまうからね」
「だよね……」
セフィラはさらに深くうつむき、力なく肩を落とした。
「セフィラだっけ。なんでまたこんな大脱走なんて仕でかしたの? 周りにどれだけ迷惑がかかるか、分かっててやったんでしょ?」
それまで様子を見ていたアルが、少しとがめるような視線をセフィラへと向ける。
「私ね、元々は一般市民の子供だったの。でもある日、強力な神聖魔法の適性があるってわかって……半ば無理やり聖王国の聖女に祭り上げられたのよ。それからの日々は、正直……地獄だったわ」
彼女の口から語られたのは、あまりにも予想外の過去。
明るい口調の裏に、長い年月をかけて積み重なってきた苦しみにじんでいるような気がした。
「毎日朝から晩まで厳しい訓練を押し付けられて、気心の知れた友達もいない。行く場所も食べるものもすべて厳しく制限されて……毎日、ずっと寂しかった」
「セフィラ……」
「だから、この国に来たときにふと思っちゃったの。これが自由に過ごせる最後のチャンスかもしれないって。結果的にルナリアたちにたくさん迷惑をかけることになって、本当にごめんなさい」
この子は、前世のゲームにおける物語の主人公だ。
けれど、今私の目の前で傷つき、悲しんでいる彼女は、間違いなく血の通った一人の人間。
いや、数々の苦難を課せられた彼女こそ、誰よりも幸せになるべき人間のはず。
「そんなこと言わないで。少なくとも私は……あなたに出会えて良かったと思っているわ。だって、今日あなたと一緒に街を回れて、私は本当に楽しかったもの」
「ルナリア……っ」
「私と友達になってくれてありがとう。少しでもあなたの胸の寂しさを埋めることができたのなら、これ以上嬉しいことはないわ」
「う……もう……そんなこと言われると泣いちゃうよ……!」
セフィラはあふれる涙を堪えきれない様子で、私を強く抱きしめてきた。
彼女の温もりと涙の熱さが、私の肌を通じて伝わってくる。
「せめて、もう一晩くらいみんなと一緒にいたかったな……」
ポツリと漏らしたその本音に、私は返す言葉を見つけられなかった。
「お姉ちゃん、どこかに行っちゃうの?」
状況が十分に理解できていないエリオスが、不安そうにセフィラの顔を見つめる。
「エリオス……。私は聖女だから、どこにも自由に行けないのよ。今日はいっぱい一緒に遊んでくれて、ありがとう」
「……聖女だか何かは知らないが、そんなくだらない規律など無視すればいいだろう」
それまで部屋の隅で頑なに沈黙を守っていたヴィルが、ふと口を開いた。
「嫌なら、今日みたいに何度でも逃げ出せばいい。属性や魔力だけで人の価値を判別するような連中の言うことなど、まともに聞くだけくだらない。本当に不満なら、もっと大声で泣き叫んで嫌がれ」
かつて聖王国で闇属性というだけで不条理な迫害を受け、過酷な生き方を強いられてきたヴィル。
そんな彼だからこそ、聖王国の歪んだ体制に縛られるセフィラの苦しみが、人ごととは思えなかったのかもしれない。
突き放すような言葉だけれど、その声の奥に、同じ痛みを知る者だけが持つ温度があった。
「……ヴィル。……あはは、確かにそうかもね。私、ちょっとわがままが足りなかったのかな」
涙を指先でそっとぬぐいながら、セフィラは救われたように優しく微笑んだ。
「あれ、ヴィルにしては珍しくまともなことを言うじゃん」
アルが意外そうな顔をして、ニヤニヤしながらヴィルをからかう。
「俺は、属性だけで人を判断する奴らがただ気に食わないだけだ」
ヴィルはバツが悪そうにそっぽを向くと、顔を誰にも見られない方向へと向けるのだった。




