表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は全員生存エンドを目指す【完結】  作者: しのギドラ
四章「本当の主人公編」
87/133

4章-87.夕暮れの公爵邸、現れた本当の主人公

 セフィラに請われて、私達は一度公爵家へと戻ることになった。

 空を見上げれば、ゆっくりと美しい夕陽色に染まりつつある。


「セフィラ、ここが公爵邸よ」


「わー、大きい! それにとっても……豪華!」


 セフィラはローブをかぶったまま無邪気に目を輝かせ、嬉しそうに公爵邸の立派なたたずまいを眺めている。


「あれ、ルナリア達じゃん。こんな時間に帰ってきたの」


 私たちの後ろから、どこかひょうひょうとした聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 特徴的な黒い三つ編みを軽快に揺らしながら、アルが手をひらひらとさせてこちらに近寄ってくる。


「アルこそ、こんな遅くまで出かけていたの?」


「まあね。ちょっと色々探しててさ」


 どこか含みを持たせるように不敵な笑みを浮かべ、アルは肩をすくめた。

 何か彼なりに気になる調査でもしていたのだろうか。


「ねえ、ルナリア。こちらの方は?」


 セフィラが不思議そうにアルを見つめながら、私に小さく耳打ちをしてくる。


「彼はアル。この公爵家に仕えているのよ」


「そうなのね。こんにちは、私はルナリアの友達です! よろしくね」


「ルナリアの友達……え、いつの間に女の子の友達ができたの。それは初耳なんだけど」


 アルは驚いたように目を丸くし、私とセフィラの姿を交互に見つめる。


「僕の友達でもあるよ! みんな友達!」


 エリオスが負けじと声を弾ませ、セフィラの手を握る。


「ふうん。まあ、エリオスがそれだけ懐いているなら大丈夫かな……。って、ヴィルも友達になったの?」


 アルがニヤニヤしながらヴィルに視線を向ける。


「……了承した覚えはない……」


 ヴィルは不服そうな表情を浮かべ、ふいと横を向いてそっぽを向いた。


「色々あってね……公爵家に遊びに来たいと言われたから連れてきたの。彼女を中へお通ししても構わないかしら?」


「まあ、大丈夫なんじゃない? 俺達の紹介なら門番も問題なく通してくれるでしょ」


「それじゃ、お邪魔するね!」


 セフィラは嬉しそうに笑みを浮かべ、門に向けて一歩踏み出す。

 その時だった、遠くの方から馬車の足音が聞こえてきた。


「お、ちょうどよくグレンも帰ってきたみたいだね」


 アルが馬車の紋章に目を留めて呟く。


「ん? ルナリア、グレンって誰?」


「この公爵家の三男よ。今日、王宮へ外交に出かけていたの」


「あー……王宮……」


 その言葉を聞いた瞬間、セフィラのそれまでの華やかな笑顔が、一瞬にしてぎこちなく固まる。

 それを見て私は首をかしげる。


「どうしたの?」


「あーいやーその……」


 彼女が妙に挙動不審な様子を見せていると、私達の目の前へゆっくりと馬車が停まった。

 扉が開くと、そこから見慣れた、そして見るだけでほっと安心するような、燃えるような赤髪が夕陽になびいた。


「ルナリア、それに皆……門の前でそろってどうしたんだ?」


「グレン、おかえりなさい……!」


 正装を着こなした彼は、いつも以上に大人びて見えて格好いい。

 その姿を見るだけで、私の胸は跳ね上がってドキドキしてしまう。


「なんかルナリアが、公爵邸に友達連れてきたんだってさ」


 アルが相変わらずの調子で、私達のやり取りをグレンに伝える。


「ルナリアが……?」


 グレンは意外そうな声を漏らし、私のすぐ横にいたセフィラへと視線を移した。


「こ、こんにちは……」


 セフィラはどこか引きつった硬い笑顔のまま、グレンの視線を受け止める。


 一瞬。


 いや、夕暮れという時間のせいだろうか。

 私にとっては気の遠くなるほど長い時間に感じられた。

 二人の視線が、夕陽の中で交わされる。


「……君は……」


 グレンが何かを確かめるように、セフィラをじっと見つめる。

 その場の空気が、何とも言えない独特の緊張感を帯びていく。


 茜色の夕陽に染まる二人の顔。

 けれど、その光景は私の心に、なぜか痛いほどに暗い影を落とした。

 胸の奥が締め付けられるような、不穏なざわめきが止まらない。


「どう、したの?」


 私は動揺を隠しきれず、声を震わせながらグレンとセフィラに問いかけた。


「いや……気のせいか……。すまない、女性を不躾に眺めてしまった」


 グレンはハッと我に返ったように視線を外した。


「あ、い、いいえ。大丈夫です……」


 セフィラもまた、慌ててローブを握りしめながらうつむいた。


「ルナリアの友達だったね。歓迎するよ。名前を聞いてもいいだろうか?」


「うぇ!? え、ええっと……」


 グレンの至極当然な問いかけに対して、セフィラは今日最大級の慌てぶりを見せる。

 そのあからさまな怪しさに、私達は思わずお互いの顔を見合わせるのだった。


「セフィラ、どうしたの? 顔色が悪いように見えるわ……」


 私が心配になって彼女の顔を覗き込むと、隣にいたグレンが驚きの声をあげた。


「……! セフィラ……だって……!?」


 グレンは、信じられないといった様子でセフィラに視線を向ける。


「グレン、彼女を知っているの?」


「知っているも何も、彼女は……」


「……あちゃー……さすがにバレちゃうか……」


 セフィラは困ったように眉を下げ、観念したような苦笑いを浮かべた。


「セフィラ……?」


「ごめんねルナリア、隠してて……」


 セフィラは羽織っていた大きなローブを顔からそっと外すと、自らの指をパチンと軽快に鳴らした。

 すると、彼女の身を包んでいた茶色の髪と瞳に、きらきらとした光の粒子が美しく散った。


 光の輝きが消え去ると同時に、彼女の髪色は澄み渡る空を思わせるような、どこまでも綺麗な薄い水色へと変化していく。

 ひとつに結ばれていた髪も、その魔力に呼応したかのようにハラリと優雅にほどけ、夕陽を浴びてきらめいた。


 私はその劇的な変貌を目の当たりにした瞬間、頭を揺さぶれるような衝撃を覚える。


 そして、前世の記憶が鮮明に呼び覚まされた。


「あ……っ」


 私の脳裏に蘇ったのは、あの乙女ゲームのメインビジュアル。

 グレン、アル、エリオス、ヴィル。

 その四人の男性たちのちょうど中央に立ち、慈愛に満ちた笑みを浮かべていたヒロイン。


「私は……聖女セフィラ。黙っていて、本当にごめんね」


 聖女と名乗ったセフィラは、私の記憶に深く刻まれているパッケージヒロインと、寸分違わぬ姿でどこまでも可憐に微笑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ