4章-86.隠れ家カフェの甘味、芽生える友情
賑やかな大通りを少し外れた路地裏にある、隠れ家的なお洒落なカフェ。
私達はその店の奥まった場所にある落ち着いた席に腰を下ろし、店特製のきらびやかなケーキをみんなで味わっていた。
「お、お、おいしいー! 今まで食べた物の中で、一番おいしい!」
セフィラはフォークを握りしめ、一口食べるごとに弾んんだ声をあげて感動している。
「ふふ、そんなに喜んでもらえて嬉しいわ」
「ふわふわ白いクリーム! ママ、この赤い実おいしい!」
「エリオス、ほっぺにクリームがついてるわよ。ふいてあげるわね」
私はハンカチを取り出し、エリオスの愛らしい頬をやさしくぬぐう。
セフィラの天真爛漫な笑顔やエリオスの無邪気な様子を眺めながら、私はこの場を満たす楽しげな空気を心から満喫していた。
「ヴィル、ここに危険はなさそうだから……ほら、ケーキ食べて」
「……わかった」
ヴィルは周囲の様子をぐるりと見渡したあと、私の言葉に納得したように小さく頷いた。
周囲に不審な気配がないことを確認し、ようやく警戒を緩めてフォークでケーキを口へと運ぶ。
「……っ。うまい……」
「でしょう? ここは私もお気に入りのお店なの」
私とヴィルのやり取りを、セフィラは紅茶のカップを片手にじーっと興味深そうに見つめていた。
「ねえ。みんなはどういう関係なの? 兄弟には見えないのだけど……」
「ええと……彼らは私と同じ家でお世話になっている……家族……と言ってもいいくらいに、親しくしている仲なのよ」
「へえ……。みんなが一緒に住めるなんて、そのお家はすごい大きいのね」
「実はこの国の公爵家で……私は一応子爵家の娘なのだけれど、色々な事情があって保護していただいている身なの」
「ルナリアは貴族だったのね! どおりで品が良くて……これだけ可愛いわけだわ」
「そ、そんなことないわ……!」
突然の褒め言葉に私が慌てて首を振る。
しかし隣にいたヴィルが真面目な顔のまま、淡々と言葉を重ねてきた。
「いや、ルナリアは可愛い。それに、とても美しい」
「うん! ママはね、世界で一番かわいいの!」
エリオスまでフォークを掲げて元気に同意する。
「ふ、二人まで……もうやめて……っ」
味方であるはずの身内から怒濤の絶賛を受け、私はすっかり恥ずかしくなってしまい、熱くなった顔を両手で覆い隠すのだった。
「ということは、公爵家がルナリアの今の家……というわけなのね」
セフィラは特製ケーキを一口含むと、納得したように何度も小さくうなずいた。
「そういうことに……なるわね」
「ねえ、それじゃあ私も公爵家に行ってもいい?」
「え!?」
あまりにも突飛で行動力あふれる提案に、私は思わず驚きの声をあげてしまう。
「私ね、友達の家に一度行ってみたかったの! ……あ、ごめんなさい、勝手に友達なんて言っちゃって……!」
セフィラは自分の勢いにハッとしたように、少しだけ身を縮めてきまずそうに顔を赤らめる。
「友達……」
その響きが私の耳に届いた瞬間、胸の奥が温かくなっていくのを感じた。
この世界に転生し、孤独に心を悩ませることが多かった私にとって、同性の「友達」と呼べる存在ができるのは、実に前世以来のことだったのだ。
「むしろ、とっても嬉しいわ。セフィラ、友達になってくれてありがとう」
「えへへ……私も!」
私の言葉に安心したようで、セフィラはパッと花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。
「僕は? 僕は友達じゃないの?」
やり取りをじっと見つめていたエリオスが、少しだけ寂しそうに私とセフィラを交互に見つめた。
「もちろんエリオスもよ! それにヴィルもね!」
「俺は別に友達じゃなくていい……」
ヴィルはふいと顔をそらし、いつも通り無愛想につぶやく。
けれど、少しだけ顔を和らげているのを私は見逃さなかった。
彼なりの不器用な照れ隠しなのだと分かると、なんだかおかしくて嬉しさが込み上げてくる。
この席を満たすあたたかな賑やかさを全身で受け止めながら、私はそっと自分の胸に手を当てた。
(グレンとアルもここにいたら……きっともっと楽しいだろうな。公爵邸に戻ったら会えるかしら)
私は目の前で白い湯気をごく穏やかに立てている紅茶を見つめた。
守りたいと思える大切な人たちに囲まれているこの奇跡のような幸福を噛みしめながら、そっと微笑むのだった。




