4章-83.聖王国からの使節団、休みの日の約束
私達は、せっかくだからとそのままテラス席でお茶をすることになった。
運ばれてきた紅茶の香りを楽しみながら、ひとときの穏やかな時間を過ごしていると、グレンがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、明日……隣国の聖王国から使節団が来るんだ」
「聖王国から? 初めて聞いたわ……」
「王宮での外交がメインだからな。聖王国は神聖魔法を崇める国だ。その関係で、私も外交の場に出席することとなった」
「グレンも……。大変でしょうけれど、がんばってね」
「良い機会じゃん。女神の槍について何か有益な情報が聞けるかもよ?」
アルが楽しそうに笑いながら、カップを傾けて言葉を挟む。
「ああ、私もそのことで何か教授いただけないかと期待しているんだ」
「……聖王国か……」
その国名が発せられた瞬間、それまで静かにしていたヴィルが、苦々しく顔をしかめた。
「どうしたの? ヴィル、何だかとても嫌そうね」
彼のただならぬ様子に気づき、私は心配になって声をかける。
「俺はもともと聖王国で生まれた。……あの国で闇属性は迫害の対象だからな。良い思い出がひとつもない」
「そうだったのね……」
彼の生い立ちを聞き、私は同じ闇属性としてはっとする。
かつての彼の孤独な境遇を思うと胸が痛む。
「特に聖女……あいつらは特に気に食わない。特権を貪る卑しい存在だ」
ヴィルの声には、珍しく深い嫌悪の情が混じっていた。
「聖女……?」
「確か、神聖魔法を受け継いだ高潔な女性のことだよね。俺とは相性が悪そうだ……。今回の使節団にも来ているの?」
アルが少し表情を引き締めながらグレンに尋ねる。
「ああ。何でも、ここ数百年の中でも最高峰の力をもつ聖女様がいらっしゃるそうだ」
「へえ……聖王国も気合が入っているねえ。俺は絶対会わないように気をつけないと」
アルは肩をすくめ、厄介事を避けたいように苦笑した。
「パパ、明日いないの?」
エリオスが寂しそうにグレンの服の袖を引く。
「ああ、せっかくの休みだが……皆で屋敷でくつろいでいてくれ」
「じゃあママ! 一緒にお出かけしよう! 甘いお菓子いっぱい買いたいな!」
エリオスはすぐに気持ちを切り替え、期待に満ちた目で私を見上げてくる。
「そうね……天気が良ければ、街を散策しましょうか。ヴィル、アルも来てくれる?」
「ルナリアのそばが俺の居場所だ。当然ついていく」
ヴィルは迷うことなく、当然と言わんばかりにうなずいた。
「んー、俺はパスしようかな。うっかり聖王国の連中と遭遇したくないし、ちょっと探し物もあるしね」
アルは手をひらひらさせながら、少しだけ申し訳なさそうに断った。
「わかったわ。それじゃエリオス、ヴィル……明日はよろしくね」
「わーい! お出かけ!」
エリオスは嬉しそうに声を弾ませる。
グレンは私達のやり取りを羨ましそうに見つめ、小さくため息をもらす。
「皆、気をつけるんだぞ。……私も本当なら一緒に行きたかったな」
「お土産を買っておくわ。グレン、そっちの用事が落ち着いたら、今度は一緒に出かけましょうね」
私は彼を元気づけるように優しく微笑みかける。
木漏れ日があたたかく降り注ぐ中、私達は明日の休みに向けて心を弾ませるのだった。




