4章-82.穏やかな風と、木漏れ日のテラスでの五人
あの大騒動となったエリオスの暗殺未遂事件から、早いもので半年が過ぎていた。
私は日差しの心地よい学園のテラス席に座り、そよ風に髪を揺らされながら、ひとりぼんやりと外を眺めていた。
「あと半年で中等部も終わりか……」
私はそっと目をつむり、これまでの激動の日々を振り返る。
この学園でグレンとアルに出会い、そして数々の危機を乗り越える中で、エリオスやヴィルとも巡り合った。
とても慌ただしい毎日だった。
けれど、大好きな彼らと一緒に過ごすことのできた大切な時間、そのすべてが愛おしく、かけがえのない宝物だ。
「ルナリア、待たせたかな?」
後ろから、耳に心地よい男性らしい凛とした声が響いた。
振り返ると、そこには私を優しく見つめるグレンの姿があった。
「グレン……。ううん、今来たところよ」
グレンは私の隣の席に腰を下ろし、整った唇を和らげて微笑みかけてくれる。
「アル達は一緒じゃなかったの?」
「彼らは図書館に行っているよ。アルが『まだこの二人には勉強が必要だ』と言い出してね。……おそらく、私達に気を使って席を外してくれたのだと思うが」
「そう、なの……」
アルの粋な計らいを察し、私の胸にほんのりと熱が灯る。
「皆で賑やかに過ごす時間も楽しいが……。こうして久しぶりにルナリアと二人きりになれて、とても嬉しい」
グレンはそう言って、テーブルの上に置いていた私の小さな手に、自らの大きな手のひらをそっと重ねた。
「私も……グレンと一緒にいれる時間は……その、とても好き……」
「そ、そうか……同じ気持ちなら良かった」
お互いに頬を微かに染め、二人の間に何とも言えないこそばゆく甘い空気がゆったりと流れていく。
「それにしても、まさかエリオスとヴィルまでこの学園に入学するとは思わなかったわ」
「そうだな。よく正式な許可がおりたものだと、私も驚いたよ」
あの事件の後、引き渡しを免れたエリオスが「ママと同じ学園に通う!」と大騒ぎした結果、まさかの同学年へと編入することが決定したのだ。
外見の成長が早い竜人の特性もあるのか、周囲との折り合いをつけつつ異例の学生生活が始まっている。
そしてヴィルもまた、公爵家令息であるグレンの従者という肩書きを得て、共に学園へと入ることとなった。
「二人にとっては、この国で暮らすための知識が身につく良い機会だろう。……周囲からは、かなり奇異な目で見られているを感じるがな」
「それはしょうがないわ。ヴィルはともかく……本物の竜人がいるのだもの。正式な国交回復の前に、こんなに表舞台へ出て良かったのかは分からないけれど……」
「もしかしたら、国の上層部もエリオスを今後の国交回復の足がかりとして期待されているのかもしれないな。当の本人は、ただただ楽しそうに毎日を過ごしているようだ」
「ふふ、そうね」
微笑ましい光景を思い浮かべて私が笑っていると、遠くの方から青々とした芝生を勢いよく駆け抜けてくる足音が木霊した。
「ママー! おじちゃんがいっぱい歴史の本を読めっていうの! つまんないー!」
元気いっぱいの声を響かせながら、エリオスが私の方をめがけて一直線に突進してくる。
「エリオス……。逃げ出してきたの? だめよ、アルはあなたの将来を思って一生懸命に勉強を教えてくれているの。それに、記憶を失う前のあなたはとても優れた知識人だったのだから、きっと素質があるはずよ」
「やだー!」
エリオスは納得がいかないといった様子で、ぷくーっと不満げに頬をふくらませる。
この半年間、エリオスの成長速度は目を見張るものがあった。
イリス女王が言っていた生態の通り、すでに初等部の高学年くらいにまでその背丈が伸びている。
「あーあ。せっかく二人きりにしてあげたのに……。ごめんね、グレン、ルナリア」
アルが申し訳なさそうに手をひらひらとさせながら、私たちの元へとやってくる。
その少し後ろには、相変わらず影のように寄り添うヴィルの姿もあった。
「アル、ご苦労さま。それにヴィルも……勉強は大変でしょう?」
「……大変だが、知識が増えるのは悪くない」
ヴィルは私と視線が合うと、少しだけ表情を柔らかくして淡々と答えた。
「ヴィルは筋がいいよ。教えたことをサクサク覚えるし、応用もすぐにできるようになってる。教えがいがあるよ」
「だそうだ、エリオス。お前もヴィルに負けないようにがんばるんだぞ」
グレンが優しくエリオスの綺麗な銀髪を撫で、励ますように言葉をかける。
「うう……勉強やだ……。でも、パパがそういうなら……ちょっとだけがんばる……」
「がんばって、エリオス。私も応援してるから」
私たちは温かなひだまりの中に包まれながら、お互いに顔を見合わせて笑い合う。
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