3章-77.明日の約束、近づく別れの時
王宮騎士団の迅速な連携により、その日のうちに暗殺者集団は一人残らず捕縛され、組織は壊滅した。
夜明けの光とともに、海原の地平線が少しずつ明るくなっていく。
長い夜の終わりを告げる柔らかな光が、波間を白く染めていった。
「はあ、疲れた。そっちは大丈夫だった?」
アルは大きく伸びをしながら、こちらに近づいてくる。
激しい戦闘をくぐり抜けてきたはずだが、普段通りの余裕が感じられた。
「ええ、大丈夫。エリオスも無事よ」
「眠いよぉ……」
私の腕の中で、エリオスが小さな手をこすりながら眠気を訴える。
「そりゃそうだ。大人でも眠くなる状況だしね。って、グレン……こっちに来ないと思ったら怪我してるじゃん。平気なの?」
アルはグレンの肩に巻かれた布に目を留め、眉をひそめた。
「ああ、大丈夫だ……」
グレンは短く答えると、少し離れた場所に佇むヴィルの方へと視線を向ける。
そして、彼の間近へと歩み寄った。
「……ルナリアから聞いた。お前の解毒薬のおかげで私は助かった……礼を言う」
ヴィルは不意に正面から声をかけられ、不本意そうにそっぽを向く。
「別に、ルナリアが守れと言ったからだ。本当だったら死んでもらった方が好都合だった」
吐き捨てられた突き放すような言葉。
しかし、グレンはその態度をとがめることもなく、真摯に言葉を重ねた。
「お前…いや、ヴィル。君のおかげで、ルナリアとエリオスを守り切れた。思うところはあるが、感謝だけは本当にしているんだ」
「……ふん」
ヴィルはグレンからさらに不器用そうに視線を逸らす。
グレンの裏表のない誠実な感謝の言葉に、少し照れているようにも見えた。
「ヴィルの情報は全部正しかったわけだしね。……頭領だけは逃しちゃったみたいだけど。まあ、組織は壊滅させたし、しばらくは派手な動きはみせないだろうさ」
アルが二人の間の妙な空気をほぐすように、肩をすくめて割って入った。
「……頭領は俺が必ず殺す。俺の闇の魔力を利用し、人生を狂わせた存在だ。いつか絶対に見つけ出す」
ヴィルの声には、かつての組織への未練など微塵もなく、ただ元凶に対する深い因縁だけが宿っていた。
「ヴィルも色々とあったんだね。まあ、俺もあの頭領はぶちのめしたいところだけど」
アルは、水平線の彼方からゆっくりと昇っていく朝日を見つめる。
「あと数日待てば、エリオス護衛の仕事は完了だね。まったく、とんだ大騒動に巻き込まれたものだよ」
アルのその言葉は、過酷な戦いが一区切りついた安心感とともに、この旅の終わりがすぐそこに迫っていることを告げていた。
「エリオスと一緒にいられるのも、あと少しなのね」
私は胸の奥に寂しさを覚えながら、腕の中にいるエリオスの綺麗な銀髪を優しく撫でる。
この温もりを手放さなければならない時間が近づいていると思うと、言いようのない切なさが込み上げてきた。
「? ママ、僕たちはずっといっしょだよ?」
私のつぶやきの意図が分からず、エリオスは不思議そうに私を見つめてくる。
子供らしい一点の曇りもないその純粋な瞳で見つめられると、私はそれ以上言葉を続けることができなかった。
「……エリオス。明日は港町を探索でもしようか。みんなで最後の時間を楽しもう」
私とエリオスの様子を見守っていたグレンが、優しく語りかけるように提案してくれた。
別れの時を意識する私を気遣い、同時にエリオスに楽しい思い出を残してあげようという、彼なりの温かい配慮が伝わってくる。
「みんなとお出かけ! 行きたい! おいしいものいっぱい食べるの!」
グレンの魅力的な提案に、エリオスは先ほどまでの眠気もどこかへ吹き飛んだようだ。
嬉しそうにその場でぴょんぴょんと跳ね上がっている。
「俺も港町ダイラスは散策したかったしね。ともかく、とりあえず今日は帰ろうか」
アルもエリオスの無邪気な様子に笑みをこぼしながら、長旅と激戦の疲れを癒やすべく、まずは滞在先へと戻ることを促すのだった。




