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3章-73.乱れる防衛陣、命を繋ぐ口付け(□)

 潮の匂いが低く立ち込める、南の船着き場近く。

 その一角にある広場に、私たちは王宮騎士団とともに臨戦態勢の陣を張った。

 夜の闇が周囲を包み込むなか、アルが作戦の最終確認のために声を出す。


「それじゃ俺とヴィルで先行するから、グレンは様子を見ながら少し遅れて来てね。うまくいけば挟撃できるから」


「わかった。アル、気をつけてくれ」


 アルは真紅の瞳が周囲から見えないように、目深に黒いローブをかぶり直すと、素早い動作で身をひるがえす。


「……ルナリア、いつでも駆けつけれるようにする」


 私の身を案じる言葉を短く残し、それを追うようにしてヴィルもまた、滑るように闇へと消えていった。


「始まるのね……」


 私は胸の鼓動を抑えながら、隣で眠そうにうとうとしているエリオスを抱きしめる。


「これで終わるはずだ。あと少し、皆でがんばろう」


「ええ、グレン。あなたも気をつけて——」


 言葉を交わし合おうとしたその時、王宮騎士団の陣の外から、夜気を切り裂くような凄絶な叫び声が上がった。


「……え!」


「予想通り、エリオスを狙う別働隊がいたか……!」


 グレンが即座に手元の女神の槍を構える。

 そこへ、隙を縫うようにして肉薄してくる無数の不穏な影。

 敵と味方が狭い空間に入り乱れ、誰が誰を狙っているのかさえ判別がつかない混迷を極めた状態となる。


「ルナリア! 王宮騎士団の陣形が乱れている……ここを離れて通路へ逃げよう!」


「わかったわ! エリオス、行きましょう!」


「うん……」


 半分寝ぼけ眼をこすりながらも、エリオスは必死に私の手を握り返してついてくる。

 入り組んだ通路の中へと滑り込むと、一気に外の喧騒が遠のいていった。


「そこに倉庫がある。ルナリアとエリオスはそこに——」


 避難場所を見つけ、グレンが指をさそうとしたその瞬間。

 私達の方を向いた彼の息が止まった。


「——危ない!」


 グレンが弾かれたように、私とエリオスの前に身を投げ出すようにして躍り出る。


「グレン!?」


 私の叫びと、物陰から放たれた凶刃が彼の肩へと深く突き刺さる音は同時だった。


「くっ……!」


 グレンは苦悶の声を漏らしながらも、振り向きざまに渾身の力で女神の槍を大きく振るう。

 その一閃の風圧に圧されて、襲撃してきた影が素早く後方へと飛び退いた。


「はぁ……ぐ……っ」


 グレンは油断なく槍を構え直して敵を睨みつけるが、その顔色は青ざめ、精彩を欠いていく。

 再び影が、追撃を仕掛けようと身を動かしたその時だった。


「——ルナリアに近寄るな」


 冷ややかな声とともに、その襲撃者の身体を、背後から現れたもう一つの影が息をつく間もない速さで締め上げる。


「ヴィル……!」


 いつの間にか戦況を察知して駆けつけていたヴィルが、敵の動きを完全に封じ込めていた。


「ルナリア、これをその男に飲ませてやれ」


 ヴィルは胸元から取り出した小さなガラス瓶を、私の方に向けて放り投げる。

 私は慌ててその小瓶を両手で受け止めた。


「これは……?」


「解毒薬だ。暗殺者達の刃には毒が塗ってある」


「……毒……!?」


「別にそいつが死んでもかまわないが……ルナリアに守れと言われたから仕方なくだ」


 ヴィルは淡々とそう告げると、捕らえた男を締め上げたまま、再び溶けるように闇の奥へと消えていった。

 私は嫌な音を立てる心臓をおさえながら、すぐさまグレンのもとへ駆け寄る。

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