3章-57.ベッドの上で重なる視線、額に落ちる熱(★)
カーテンのわずかな隙間から、月夜の光が一条の筋となって差し込み、薄暗い室内を淡く照らし出す。
ベッドの上。
グレンは私に覆いかぶさるような体勢のまま、一緒に倒れ込んでいた。
重なった互いの体から、どちらのものかも分からないほど激しい鼓動が伝わってくる。
至近距離で交わる、私たちの瞳。
月光を反射して美しくきらめく彼の碧玉の瞳が、驚きと熱を帯びて激しく揺れていた。
「……あ、す、すまない! 今すぐどくから……」
ハッと我に返ったグレンが、真っ赤な顔で慌てて私から離れようとする。
「あの、グレン……どうしても言っておきたいことがあって……」
離れようとしたグレンの腕を反射的につかんでしまう。
私には、ずっと前から彼に伝えたい言葉があった。
ここで手を離してしまえば、彼は理性を守るためこの部屋から出てしまい、その機会を逸してしまうだろう。
「ルナリア、頼むから離してくれ……。私は君をこんなに間近に感じて……これ以上、何もしないでいられる自信がないんだ。君に嫌われたくないんだ……!」
グレンは苦しげに声を詰まらせ、愛おしむような、衝動を必死に抑え込むような表情で懇願してくる。
そんな彼の葛藤を真っ向から受け止めながらも、私は彼を見つめ返した。
「私があなたを嫌いになることなんて、この先一生あり得ないわ。でも、この先どうなるか分からないの。だからもしもいつか、私の存在が原因であなたを傷つけたりすようなことがあったら……そのときは……」
私は悪役令嬢。
いるだけで、不幸を起こす存在。
本当なら彼のそばになんて、いないほうがいいに決まっている。
「そのときは、私のことを見限って、嫌いになって……突き放してほしいの」
「な……そんなことしない……できない! なぜ、そんなことを言うんだ、ルナリア……!」
「私は、あなたが思うような綺麗な人間じゃない。……あなたという温かい幸せを手放せなくなって、身勝手にしがみついているだけ。本当に、ごめんなさい……」
私は本来なら破滅をもたらす悪役令嬢で、前世のゲーム知識を利用して運命を切り拓いてきたに過ぎない。
そんなずるい私を、彼は何も知らずに愛してくれている。
グレンのそばにいる資格なんて、本当だったら私にはない。
「謝ることなど何もない!」
私の告白をさえぎるように、グレンは強く言い放った。
彼はいつになく感情を剥き出しにした熱い眼差しで、私の言葉を真っ向から否定する。
「君が幸せになることに、一体何の問題があるというんだ。……それに誰が何と言おうと、私にとってもルナリアのそばにいることが人生で一番の幸せなんだ……!」
「グレン……」
「……ルナリア、やはり私は、これ以上紳士的でいられそうにない」
グレンの低い声が響いた瞬間、ふわりと身体が浮き上がった。
彼はベッドに倒れ込んでいた私の身体を優しく抱き起こすと、その熱さで焼かれてしまいそうなほど強く抱擁した。
彼の鼓動と高い体温が、私の冷え切った心を包み込んで溶かしていく。
「私がルナリアを嫌いになることなんてあり得ない。……もしも今の言葉が信じられないと言うのなら、これから先、私の生涯を懸けてそれをずっと証明し続ける。君のそばを、私は絶対に離れない」
耳元でささやかれる誓いに、私の感情が涙となってあふれ出しそうになる。
グレンは私をきつく抱きしめたまま、そっと身体をわずかに引き離す。
そして愛おしさが極まったように、私の額へと優しく唇を寄せ、口づけを落とした。
「……っ!」
額に触れた柔らかい熱感に、私の心臓が跳ね上がる。
「……今日は、これくらいは許して欲しい」
真っ赤になって固まる私を見つめ返し、グレンは照れたように頬を染めていた。
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