2章-27.アルの決意、渇ききった身体
(吸血鬼との戦い……)
それは、つまりシナリオ通りに現実が進んでいるということ。
しかもかなりの困難が待っているとの情報が、前世の記憶の中にある。
「アルは……、これからどうするつもりなの?」
私は恐怖を抑えながら、アルの真紅の瞳を見つめる。
「——決まっているよ。吸血鬼を……完全に殲滅する」
真紅の瞳が、見る者を凍りつかせるような光を放つ。
「あんな奴ら、今のこの平和な世界に存在していていいわけがない。六百年前の犠牲を汚すような真似は、絶対に許さない。……今度こそ、一匹残らず根絶やしにしてやる」
静かな声でありながら、絶対的な決意を孕んだアルの宣言。
その横顔は、いつも私達の前で見せていた優しい彼ではない。
「昨日の話からすると……蘇った吸血鬼たちの真の目的は、アル、お前とは別の『もう一人の真祖』を復活させることなのか?」
「まだ予測の段階だけどね」
アルはベッドの上で、小さく肩をすくめてみせる。
「昨日、捕まえた奴にそれとなくカマをかけてみたら、面白いほど分かりやすく動揺してくれたし。だから、奴らの狙いがそこにあるのは、ほぼ間違いないと思っているよ」
国を滅ぼしかけた真祖が復活する。
アルが立ち向かおうとしている存在の大きさに、私は心臓が震えるのを感じた。
「……もう一人の真祖というのは、そんなに強いの?」
アルは私の問いに、いつになく暗い視線を向けた。
「あいつの固有特性は、一言で言えば『不死』なんだよ。心臓を貫こうが、首をはねようが死なない。極端な話、肉片がたったひとつでも残っていれば、そこからすぐに元の姿へと再生する」
「そ、そんなに強い……理不尽な存在がこの世界にいたの!?」
思っていた以上の強大な敵に、私は動揺を隠せなかった。
前世の記憶で「とにかく戦闘が難しい」という言葉が、嫌でも脳裏によぎる。
「本当、厄介だよね。異常なしぶとさと、圧倒的な暴力。そして、仲間を増やし続ける……。まさに、人間の天敵と呼ぶに相応しい化け物さ」
「なるほど……。吸血鬼というのは、まさに人知を超えた圧倒的な力をもっているのだな」
「だからこそ、一刻も早く真祖が復活する場所をつかまなきゃいけないんだ。奴ら吸血鬼の活動範囲から推測するに、アジトはそこまで遠くにはないはずなんだけどね」
アルは深く息を吐き、思案するように天井を仰いだ。
「でも……そんな危険な存在を相手に、アルだけで本当に大丈夫なの?」
私はたまらず、不安を口にしていた。
昨日襲ってきた下っ端の吸血鬼でさえ、私にとっては震え上がるほどの恐ろしかった。
その元凶である真祖を相手に、アルが一人で戦うなんて、あまりにも危険すぎる。
私の心配に応えるように、アルはふっと自嘲的な笑みを浮かべた。
「昨日みたいな雑魚が相手なら問題ない。……けれど、真祖が相手となると、正直なところ今の俺じゃ勝てないかもしれないな」
アルの口から出た予想外の弱音に、私だけでなく、隣のグレンも目を見開いた。
「それは……さっき言っていた、血が足りないから、なの?」
私に先ほど突き立てられた、あの熱い牙。
その痛みを思い出しながら、彼の胸中を探るように尋ねた。
「……そうだね。吸血鬼の力の源は『人間の生き血』だ。だけど……俺はここ六百年の間、ただの一滴も、人間の血を吸ってこなかったんだよ」
「吸血鬼が、六百年も血を吸わなかったの……? その、一体どうして……?」
「まあ、俺にも色々あるんだよ……」
アルはそれ以上の追及を拒むように、視線を泳がせて言葉を濁した。
その少し寂しげな横顔に、私はそれ以上深く問い詰めることができなくなる。
「さっきルナリアから血を貰ったから、おかげで少しは力が戻ったけれどね。……それでも、全盛期だった当時に比べれば、今の俺の力はかなり落ちるよ」
アルはそう言って、私の首元の傷をいたわるように一瞬だけ目を細めた。




