エピローグ-131.蒼天の結婚式④ 聖女と元暗殺者の恋路
エリオスが開けたままにしていた扉から、今度は特徴的な紫色の影が現れた。
「……俺が最後か」
「あ、ヴィル兄さん。遅かったね」
ヴィルもまた、アルとよく似たフォーマルな礼装を身にまとっていた。
いつもは軽装のラフな姿ばかりを見ていたので、その端正な佇まいには少し新鮮さを覚える。
「ヴィル、来てくれてありがとう」
「ルナリアの結婚式だ。……癪だが、出席しない理由はない」
彼はいつものように憮然とした態度でぷいと顔を背ける。
しかしその瞬間、彼の切れ長な瞳と、部屋にいたセフィラの視線が交わった。
「あ、ヴィ、ヴィル……。ひさしぶりね」
「………………ああ」
二人はごく短い挨拶をしたきり、気まずそうにお互いの視線をあちこちへと泳がせる。
結婚式の控室に、少しだけ長い沈黙がおりる。
けれど、二人の間に漂う空気は、どことなく甘やかで微笑ましいものを感じさせた。
「セフィラ。……ヴィルなのね?」
「え!? あ……な、何のことだか……」
しどろもどろになって、セフィラが赤くなった顔を隠すように慌てて両手を振った。
(これは確定と言っていいわね……)
彼女の様子に、唇がにやけそうになるのを止められない。
そして今度は、頬をほんの少し染めているヴィルへと向き直る。
「ヴィル、セフィラと仲良くしているのね」
「……別に、普通だ……」
そのそっけない返答に、セフィラが目に見えてあからさまに肩を落とす。
「そ、そう……普通……なのね。あれくらい……」
「いや、違……」
「じゃあ、どのくらいなの!」
「………………普通より、上だ……」
ヴィルが不器用にそう告げた瞬間、セフィラはぱっと顔を輝かせた。
「そっか……上なのね……」
そんな初々しい彼らの様子を近くで見守っていた私とアル、そしてエリオスは、可笑しそうに顔を見合わせる。
「聖王国の象徴とも言える聖女と、闇属性の元暗殺者……。これはまた、茨の道だねえ」
アルが二人の方を見ながら、少しだけ悩ましそうに瞳を細める。
その肩を、エリオスがぽんと叩き、見るものを安心させる微笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。いざとなったら僕……竜人国が聖王国に圧力をかけてでも、二人を後押ししてあげるからね」
「エリオス、頼もしいけれど、そんな気軽に恐ろしいことを言わないの……」
もしかしたら、彼らの未来には大変な苦労が待っているのかもしれない。
しかし、きっと彼らなら、そして私達もいれば大丈夫だろう。
複雑な二人の行く末を少しばかり案じながらも、控室はただ彼らの恋路を温かく応援する空気で包まれるのだった。




