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悪役令嬢は全員生存エンドを目指す【完結】  作者: しのギドラ
五章「最高の幸せへと続く道編」
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5章-127.純白の世界の再会、親友に願われる幸せな未来


 どこまでも白い世界。

 まぶたを開けると、そこには神聖で温かな光が広がっていた。


「ここは……?」


 私は鉛のように重い身体をなんとか起き上がらせる。

 どれだけ周囲を見渡しても、人影はおろか境界線すら何もない。

 ただ白だけが、果てしなく続いていた。


「——!」


「え……!」


 ふいに名前を呼ばれた。

 ルナリアではない。

 それは、私の前世の本名。

 驚いて振り返るのと同時に、白い光の中から勢いよく飛び出してきた黒髪の少女に、きつく抱きしめられる。


「よかった……目が覚めて……!」


「あなたは……!」


 温かな腕が、私を優しく包み込んでいる。

 その懐かしい感触に、胸の奥が震えた。

 彼女はかつて、私にこのゲームの世界を紹介してくれた——紛れもない、前世の親友だった。


「神聖魔法の影響下なら、こっちの世界と繋がれるのね……。やっと話せた!」


「どうして、あなたがここに……?」


 嬉しさと同じく、頭の中でさまざまな疑問が渦を巻く。

 ここは夢なのか、それとも別の何かなのか。

 しかし目の前にいる彼女は、紛れもなく本物だった。


「全部私のせいなの……本当にごめんなさい」


 彼女はゆっくりと身体を離し、申し訳なさに押し潰されるように顔をうつむかせた。


「……どういうこと?」


 私の問いに、彼女は一度唇を噛んでから、少しためらうように口を開いた。


「あなたがこの世界に転生したのはね、私の神聖魔法のせいなの。自分にまさかそんな特別な魔法が使えるなんて思ってもみなくて……ただ祈ってしまったの。あなたが生まれ変わって、来世こそ幸せになってほしいって」


「あなたの神聖魔法……もしかして、世界の壁を越える転生ということ?」


「たぶんね……。でも、まさか転生先がこの乙女ゲームの世界で、しかも悪役令嬢だなんて……。あなたってば前世に引き続き、なんて不幸体質なの! 私が何度あっちから呼びかけても、前世の記憶しか呼び起こせないし!」


 泣きそうな顔をしていたくせに、気づけばいつもの調子に戻っている。

 前世と同じ彼女の顔に、思わず苦笑いがこぼれた。


「ご、ごめんなさい……?」


「いや、謝るのは私のほうよ。私の不用意な祈りのせいで、またあなたを辛い目に遭わせてしまった……」


 彼女は、まるで自分のことのように苦しげに顔を歪ませる。

 私は彼女の温かい手を取り、ありったけの想いを込めて握りしめた。


「そんなことないわ。……みんなに出会えて、とても私は幸せだった。世界で一番、誰よりも」


「本当に……?」


 彼女の声が、かすかに震えている。

 その不安を消し去るように、私は心からの微笑みを彼女に贈った。


「ええ。私はこんな結果になってしまったけれど……みんなが幸せになってくれれば、私はそれだけで幸福なの。この世界に転生させてくれて……ありがとう」


 言葉を紡ぎながら、気づけば目の奥が熱くなっていた。

 それでも、胸の中は不思議なほど穏やかで凪いでいる。


「そっか……。あなたは何も変わってないね。前世のときから、自分のことより周りのことばかり優先して……。だから、そんなあなたにこそ、私は幸せになって欲しかったんだよ」


 差し伸べた私の手を、彼女は確かめ合うように握り返してくれた。

 指先から伝わる温もりが、胸の奥まで染み渡っていく。


 やがて彼女は、愛おしげな笑みを浮かべたまま、そっと私の手を引いた。


「だから……いきましょう。あなたの帰りを待っている人たちの元へ」


「……え? でも、私は……」


 帰れるはずがない。

 それでも彼女の手は、迷いなく私を光のその先へ連れて行く。


「大丈夫。あなたがこれまで懸命に築いてきた絆を辿れば、必ず戻れるよ」


 彼女は、私の手を握り、どこまでも続く純白の世界を軽やかに駆ける。

 その笑顔が、美しく、まぶしくて仕方なかった。


「もう会うのはこれで最後だろうけれど……私はずっと、あなたの幸せを心から願っているからね……!」


 声が遠ざかっていく。

 神聖な光に塗りつぶされるように、彼女の姿が次第に霞んでいく。


 ただ、繋いだ手の温もりだけが、最後まで確かに残っていた。


 意識の底が、ゆっくりと明るくなっていく。


 遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。


 私はその声を手繰り寄せるように、意識を浮かび上がらせていく。



 純白の光景がゆっくりとかき消え、私は重いまぶたを上げる。


 真っ先に目に入ったのは、夜空の下であっても輝きを失うことのない、燃えるような赤髪だった。


 そして、大粒の涙に濡れた、美しい温かな碧玉の瞳。


「グレン……?」


 何よりも愛しい人の名前がこぼれ落ちる。

 それを私が口にした瞬間、彼の碧の瞳が大きく震えた。


「ルナリア……!」


 同時に彼が、慈しむように、けれど何よりも強く私を抱きしめる。

 鮮やかな赤髪が、私の首筋へと埋められた。


「グレン……それに、みんな……。私を助けてくれたのね」


「すまない……君を守ると、あんなに誓ったのに……!」


 彼の肩が、身体が、流れる涙とともに小刻みに震えている。

 私が闇に囚われていた間、彼にどれほどの苦しみと心配をかけてしまったのだろうか。

 胸の奥が、申し訳無さで痛んだ。


「そんなこと気にしないで。私を助けるために……頑張ってくれたのでしょう?」


 彼は私を離さないまま、詰まりながらも言葉を絞り出す。


「目覚めてくれて……ここに帰ってきてくれて……ありがとう、ルナリア……!」


「心配かけてごめんなさい……。……ただいま……!」


 私も彼の背中に腕を回し、そのぬくもりを確かめるように、想いを込めて抱きしめ返す。

 この温かさが、夢ではないのだと教えてくれた。


 見上げれば、長く苦しかった夜の終わりを告げるように、東の空がうっすらと白み始めていた。


 夜の重さがほどけていくように、世界にゆっくりと光が満ちていく。

これで最終章は完結です。

次回からエピローグが始まります。


ご愛読ありがとうございます。

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