5章-126.(グレン視点)女神の槍の真実、覚めない眠り
ここから先は、私の持つすべての神聖魔力をこの槍へと注ぎ込む。
私は胸元に収めていた、ルナリアから託されたあの宝珠を取り出した。
「ルナリア。こんな目に遭わせてしまい、本当にすまない……。必ず、君をここへ呼び戻してみせる!」
黒い異形——ルナリアに向けて、決意の一歩を踏み出すとともに私は地を蹴った。
行く手を阻むように禍々しい影の魔法が襲いかかってくるが、それを背後に控えるエリオスの術式が鮮やかに霧散させていく。
頼もしい援護を受けながら、私はただ正面のルナリアだけを見据え、闇夜を一直線に駆け抜けた。
ルナリアの目の前まで肉薄した瞬間、周囲の闇の魔力が、こちらの力をかき消そうと一斉に押し寄せてくる。
私は怯むことなく、その暗黒の渦に向けて手中の宝珠を投げつけた。
まばゆく放たれた宝珠の輝きが、ルナリアを覆う闇の魔力を抑えつけていく。
「ルナリア——!」
彼女への想い、愛しさ。
言葉にできるもの、できないもの。
そのすべてを胸の奥から絞り出し、ただ一つの祈りへと変える。
私の神聖魔法の真髄。
——それは、祈りとともに自身が頭の中に思い描いた能力を、女神の槍に付与すること。
彼女を元の姿へと戻すという、ただ一つの祈りを刃へと乗せて。
私は、愛する彼女をその腕で優しく抱きしめるように、女神の槍を突き刺した。
「——!」
純白の光が舞い散る。
全てを飲み込もうとした暗黒が塵となり、白亜の光へと変わる。
私は手を伸ばして、光の向こうの手に触れた。
突き刺した槍の先から、まばゆい純白の光が美しく舞い散る。
すべてを飲み込もうとしていたあの暗黒が塵となって消え去り、温かな白亜の輝きへと変わっていく。
私はあふれる光の向こうへと必死に手を伸ばし、そこにあった愛しい手に触れた。
「ルナリア……!」
光が収まったあとに現れたのは、異形の姿などではない、紛れもない彼女自身の姿だった。
もう二度と離さない。
離しはしないと心に誓いながら、愛おしいその体を両腕で抱きしめる。
彼女を抱きながら、柔らかに地面に膝をついた。
「ルナリア……?」
彼女の顔を覗き込むが、そこにはなぜか生気が感じられなかった。
いくら呼びかけても、彼女の愛しい声が返ってくることはない。
「パパ!」
エリオスが切迫した様子でこちらへと駆け寄ってくる。
「エリオス……っ。ルナリアが目を覚まさないんだ……彼女の状態は一体どうなっている!?」
私の焦燥に満ちた言葉に応じるように、エリオスがルナリアの腕にそっと触れる。
そして、その金色の目が震えながら大きく見開いた。
「魂の形は元の姿に戻ってる。でも……肉体と魂を無理に切り離された影響で、魂そのものが傷ついてしまっているんだ……これじゃ、ママは一生目覚めないよ」
「そんな……!」
ようやく辿り着いたと思ったはずの終着点。
しかし、その先には底の知れない絶望がどこまでも広がっていた。
彼女の華奢な肩を抱きしめながら、私は自身の手が、喉が、震えてしまうのを止められない。
「グレン!」
遠くから、アルの声が響き渡る。
振り返ると、そこには真紅の瞳を心配そうに揺らすアルと、脇腹を赤く染めたヴィル、聖女セフィラが息を切らせて続いていた。
「アル……ルナリアが……!」
「事情は道すがら聞いているよ。今の彼女はどういう状況?」
「ルナリアの意識が戻らないんだ……。エリオスが言うには、魂そのものが傷ついてしまっていると……」
「傷……それなら」
ヴィルが、血に濡れているものの傷のない脇腹に手を触れながら、横にたたずむセフィラへと視線を向ける。
セフィラはその意図を汲み取るように、小さく首を縦に振った。
「ルナリア……私が今、助けるからね!」
エリオスに代わって、セフィラがルナリアのすぐそばへと腰を下ろす。
「どういうことだ……?」
私の困惑をよそに、セフィラは両手に純粋な神聖魔力を収束させていった。
この世の何よりも清らかで、美しい純白の光がこぼれ落ちていく。
「私の神聖魔法は……『回復』。瀕死の怪我も、死に至る病だって治せる奇跡の力。だったら、きっと魂の傷だって治せるはず。……治してみせる!」
セフィラは決然と告げ、その両手をルナリアの胸元へとそっとかざした。
純白の神聖な光が、あたりの闇を払うようにして包み込んでいく。




