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悪役令嬢は全員生存エンドを目指す【完結】  作者: しのギドラ
五章「最高の幸せへと続く道編」
125/133

5章-125.(グレン視点)示された道筋、エリオスから託される願い

 エリオスは銀の髪を夜風になびかせながら、私の言葉に小さく頷いた。


「そうだよ、あれはママが変質した姿。……魂が歪みすぎて、傷つきすぎて、もう元のママには戻れないんだ」


 その言葉を受けながら、私は再び異形へと視線を向ける。

 どれだけ目を凝らしても、そこにルナリアの面影を見つけることはできなかった。


「っ……だとしてもエリオス! ルナリアを殺すなんてやめてくれ! 何か、何か方法があるはずだ……!」


「方法って? ……僕は知らないよ」


 エリオスはゆっくりと首を振る。

 その声には怒りも迷いもなく、ただ全てを受け入れたような凪があった。


「それは……」


 言葉が続かなかった。

 打開するための術など、今の私には何一つ思い浮かばない。

 ただ、このままルナリアを失うことだけは、絶対に認められなかった。


「平気だよ。ここから僕が全部やるからね……」


 エリオスが銀色の魔力をその体へと収束させ、足元の石床に複雑な魔法陣を描き始める。

 このままでは、人知を超えたエリオスの実力なら、ルナリアを本当に殺してしまう。


「やめてくれ、エリオス!」


 私は拳が痛むのも構わず、自身を阻む銀の檻を叩き続けた。

 しかし私の叫びは虚しく夜に溶けるだけで、もう彼には届かない。


 悔しさと焦燥が胸の奥で燃え上がり、何もできない自分の手がはがゆい。

 檻を叩く手に力を込めるほど、圧倒的な無力感が全身に広がっていった。


 目の前で始まろうとしている、愛する人達の惨劇を止められない。


 頭をどうにかしてしまいそうなほど、目の前の光景が耐え難かった。



「——あきらめないで——」


「——あなただけが——あなたの祈りだけが、ルナリアを救えるの——」



 絶望に呑まれかけ、瞳を閉じたほんの一瞬。

 神聖な気配の満ちる純白の空間から、誰かの清らかな声が聞こえたような気がした。

 その響きが、挫けかけていた私の心を叩き起こす。


「そうだ、ルナリアのために、私は……!」


 私は手元にある女神の槍へと視線を落とした。


 かつて港町で、エリオスが口にした言葉。

 竜人の女王が語った、女神の槍の気配。

 そしてキリアン卿が明かした、神聖魔法の真髄。


 そして先ほど私の内にわずかに湧き上がった、未知なる力。


 すべての記憶が一つの流れとなり、輪郭を帯びていく。


 それは、あまりにも分の悪い賭けだった。

 私の導き出した答えは、もしかしたら間違っているかもしれない。

 それでも、私は大きく息を吸い込んで心を整え、ただ一心に祈りを捧げる。


 それは天上にいる神に向けてではなない。

 目の前で涙を流しているルナリアを、何としてでも救い出すためのものだった。


 その祈りを乗せて、私は女神の槍を大きく振るった。


 すると、先ほどまであれほど頑強に私を閉じ込めていた銀の檻が、まるで薄氷のように脆く崩れ去った。


「え……」


 ルナリアに向けて魔法を放とうとしていた、エリオスの動きが止まる。

 彼は信じられないものを見たかのように、こちらを驚いたように見つめている。


「そうか……やはり女神の槍の……本当の力は……」


 進むべき道筋が見えた今なら、きっと未来を切り開ける。

 この残酷な運命だって変えられるはずだ。


「エリオス、君は本当にルナリアを殺したいのか? 約束だからではなく……君自身の心は一体どう思っているんだ」


「それは……」


 エリオスが金色の瞳の光を、迷うように揺らす。

 口を小さく引き結び、戸惑うように視線を泳がせるその表情だけで、私への答えとしては十分だった。


「一度だけ、私にルナリアを助ける機会をくれないか。絶対に彼女を……連れ戻してみせる」


 エリオスはまだ葛藤するように、じっと足元を見つめている。

 しかし、やがて今にも泣き出しそうな顔で、私のことを再び見上げた。


「お願い、パパ。ママを助けて……!」


 エリオスの、胸を締め付けられるような懇願。

 私は彼を安心させるように、大きく頷いた。

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