5章-122.(セフィラ・ヴィル視点)仕組まれた闇、ヴィルと黒幕の対峙(□)
「……お前が、頭領だな」
「ふふ、初対面の段階で気づいてほしかったですけれどね。……ここへ来たということは、私の放った闇の魔力を感知しましたか?」
ヴィルは目前のキリアンを、そして、ほんの少し前まで黒い異形が存在していた空間をじっと見つめる。
「ここにはお前の……忌まわしい魔力と、ルナリアの魔力が色濃く残っている。……貴様、彼女に何をした!」
「それは、あなたの後ろにいるセフィラに尋ねたほうが早いでしょう。……もっとも、彼女に聞く時間はあなたに残っていませんが」
ヴィルがキリアンに向けて踏み込もうとするよりも早く、純白の光を放つ鎖が、彼を捕縛しようと神速の勢いで虚空から顕現した。
「……っく!」
闇の属性を持つヴィルにとって、その弱点となる神聖の力は、どれほどの技量をもってしても真っ向から止めることはできない。
紙一重の回避を強いられ続けるヴィルの懐へと、不意に冷ややかな風が吹き抜けた。
「こちらも忘れないでくださいね」
いつの間にか至近距離へと肉薄していたキリアンの手元から、放たれたナイフの刃がヴィルの脇腹を深く切り裂く。
痛みに顔をしかめながらも、ヴィルは即座に銀閃を奔らせてキリアンを薙ぎ払おうとした。
だが、キリアンはその一撃を、まるで凪いだ水面のような動きで難なくかわしてしまう。
「ヴィル、それはあなたの悪い癖ですよ。ひとつの事象に集中すると、それしか見えなくなってしまう。せっかく私がその身に闇属性を植え付け、育ててあげたというのに……これでは宝の持ち腐れですね」
「……どういうことだ」
ヴィルは傷ついた脇腹を押さえ、銀の剣を構え直しながら、キリアンが口にした不穏な一言を低く問い詰める。
「そのままの意味ですよ。元々、あなたはこれといった力を持たない無属性の子供だった。その空っぽな身体に、私の闇の魔力を植え付けて育てたのです。魔力の定着自体は上手くいったのですがね……」
キリアンはため息をつき、その瞳の奥にほんの少しだけ冷ややかな光を宿らせた。
「あなたは期待外れでしたよ。聖王国生まれの闇属性持ち……さぞ面白い歪み方をするかと期待していたのですが、それにしてはあなたはあまりに凡庸な人生を送ってきた。もう少し、身を焦がすような苦しみを見せてくれると思ったのですが」
まるで、退屈な本を読み終えたかのような淡々とした口調で、キリアンは残酷な事実を告げる。
「仕方がなく私の組織へと回収したものの……絶望の底へと落とし切るのも、なかなかうまくいかないものですね」
ヴィルは熾烈な憎しみで身を焼かれながら、握りしめた銀の剣にさらに強い力を込めた。
自身のこれまでの過酷な人生すらも、この男の悪趣味な実験に過ぎなかったという怒りがこみ上げる。
「お前のせいだったのか……すべて、お前の! 」
怒りによって沸騰する黒の瞳を、ヴィルはキリアンへと向ける。
しかし、キリアンはどこまでも穏やかに微笑むだけだった。
その変わらぬ優しい表情が、余計にヴィルの胸の奥にある憎悪を激しく煽り立てる。
「お前だけは、俺がこの手で殺す……! 」
だが、捨て身で突進してくる彼を、キリアンは細められた瞳で見下していた。
「……!」
直後、虚空から勢いよく飛び出た純白の神聖の鎖が、ヴィルの両手首と両足首へと巻き付く。
あれほど猛然としていた彼の勢いが、まるで冷水を浴びせたかのように、一瞬で強引に制止された。
「今言ったばかりですよ。簡単に挑発に乗って、目の前の一点しか見えなくなる……。やはりあなたは、どこまでもつまらなかった」
キリアンの手元から、冷たく光るナイフがヴィルの心臓めがけて放たれる。
身をよじって避けようとするものの、四肢を縛る光の鎖がヴィルの自由を拒んだ。
——ドン!
何物かを激しく穿つような。
地を揺るがすような大音が、暗い路地裏の辺り一帯へと激しく轟き渡った。




