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悪役令嬢は全員生存エンドを目指す【完結】  作者: しのギドラ
五章「最高の幸せへと続く道編」
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5章-110.呼吸ごと奪われる口づけ、グレンの独占欲(★★)

 キリアン卿の部屋を後にして、私たちは夜の気配が満ちる公爵家の廊下を並んで歩いていた。


「聖王国の枢機卿という大役を任されているだけあって、とても知識が豊富な方だったわね……」


「ああ。だが、おかげで色々なヒントを得ることができた。キリアン卿がこの公爵邸に滞在してくれることは、今後の私達のことを考えても良かったといえるだろう」


「本当に、とても頼りになるものね。……キリアン卿には、周囲を安心させるような不思議な力を感じるわ」


 昼間、セフィラが彼を恋い焦がれた眼差しで見つめ、慕っていた気持ちが少しだけ分かったかもしれない。

 グレンの前で口にすることではないけれど、彼女の秘めた恋心が少し理解できたような気がして、内情を知る身としてはなんだか嬉しかった。


 自然と口元に穏やかな笑みが浮かぶのを感じながら、私はさらにキリアン卿の感想を続ける。


「それに、とても優しくて物腰が柔らかくて、枢機卿という立場なのにとても気さくで……」


「…………っ」


「あれが、大人の魅力というのかしら? どんな時でも崩れない余裕もあって……」


 その時だった。


 不意に、隣を歩いていたグレンが私の腕を強い力でつかむ。

 驚く暇もないほどの勢いのまま、私は背後の壁へと体を押し付けられた。


「グレン……!? ……んっ」


 私の言葉を塞ぐように、彼の唇が降りてきた。


 それは、馬車のときを上回るほど熱く、長い口づけ。


 息苦しいほどの熱量が、私の空気ごとすべて奪い去っていく。


 ようやく唇が離れたときには、私は呼吸すらままならなかった。


「……はぁ……はぁ……グレ、ン……?」


「ルナリア……私の前で、他の男をそんなに褒めないでほしい……。嫉妬で狂いそうになる」


 至近距離でグレンの瞳を見上げると、そこには切なく揺れる熱が満ちていた。

 私は乱れた呼吸を繰り返しながら、誤解を解こうと慌てて首を振る。


「私、そんなつもりじゃ……!」


「わかっている。だが、それでも私が嫌なんだ」


 グレンは私の手を取り、その指先を一つひとつ、逃がさないように絡め取っていく。


「君の指先も、唇も、言葉さえも……本当だったら、すべて私だけで満たしたい。他の男のことなんて考える暇などないくらいに」


 グレンは繋いだままの私の手さえも壁に縫い付け、耳元へと唇を寄せてささやいた。


「自分がひどく狭量なのは分かっている。……だが、それほどまでに君を愛してしまったんだ。すまない、ルナリア」


「グレン……」


 彼の口からこぼれ出た、思いがけないほど熱い独占欲に、私の胸は甘く満たされていく。

 それは決して、嫌な感情ではなかった。


 むしろ、それほどまでに私を求めてくれる実感が愛おしくて、私は彼の鮮やかな赤髪に頬をくすぐられながら微笑む。


「謝らないで。むしろ、私はとっても嬉しいのよ。前にあなたが私の嫉妬を嬉しいと言ってくれたように、私もあなたの想いを感じられて、すごく幸せなの」


「そう、なのか……」


 少しだけ安心したように目元を緩めたグレンを見つめながら、私は少し悪戯っぽく言葉を続けてみた。


「でもね、これから先の生活で、誰のことも一切褒めないというのはちょっと難しいかもしれないわ。……例えば、親友のアルを褒めるのはダメ?」


「アルのことは信頼しているが……その分、距離が近いから余計に不安になってしまうかもしれない」


「じゃあ……ヴィルは?」


「彼に負けるつもりはないが、それでも確実に嫌な気分になるだろう」


「エリオス……はさすがに大丈夫よね?」


「彼は最近、中等部ほどの見事な成長を見せている。これ以上大きくなってからも、今のように親しく接していたら……嫉妬してしまうかもしれない」


 私は彼のどこまでも大真面目で悩ましげな言葉に、ついくすりと笑ってしまうのだった。


「さすがの君も、私の度重なる嫉妬に呆れてしまっただろう……」


 情けないと言わんばかりにつぶやくグレンに、私は笑みを浮かべて首を横に振った。


「ううん。普段は誰よりも格好良いあなたが、そんな風に本音を伝えてくれるなんて。なんだかとても可愛いなって思ったの」


「それは……褒められているのだろうか?」


 少しだけ困惑するグレンの様子に、愛おしさが胸の奥から次々とあふれ出してくる。


「もちろんよ。私が心から一番に褒めるのも、一番に想うのも……世界中であなただけよ、グレン」


 私は少しだけ背伸びをして、自分から彼の顔へと近づいた。

 そして、まだ戸惑いを残す彼の艷やかな唇に、そっと自ら触れた。


「……っ!」


 グレンの肩が小さく跳ねるのが分かった。

 驚いたように、壁際で固く絡め合っていた指先に力がこもる。


「グレン、好き……。世界で一番、大好き……」


 至近距離で紡いだ私の精一杯の告白に、彼の瞳に宿る熱がいっそう色濃くなる。


「……私もだ。その言葉だけは、他の誰にも渡さない……」


 グレンは強く私を抱きしめ、再び唇を落とした。

ご愛読ありがとうございます。

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