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悪役令嬢は全員生存エンドを目指す【完結】  作者: しのギドラ
五章「最高の幸せへと続く道編」
102/133

5章-102.揺れる馬車、約束の口づけ(★★)

 華やかな夜会の余韻と熱気をかすかに残したまま、私達の乗った馬車は会場を後にした。

 ドレスの重みと、ほんのりとした疲労感に身を任せながら、私はふかふかとした馬車の座席に沈むように腰掛けた。


「ルナリア、疲れただろう?」


 私の向かい側に座るグレンが、優しく声をかけてくる。

 彼は夜会での長時間の対応による疲れを見せることなく、ただ私を優しく労わるように、柔らかく微笑んでくれた。


「大丈夫よ。今日は素敵なエスコートをしてくれて、本当にありがとう、グレン」


「婚約者として君をエスコートできるのは、私にとってこの上ない光栄なことだよ。むしろ私のほうこそ、今日ずっと隣にいてくれてありがとう。ルナリアが隣にいてくれれば、どんなに場であっても私は最高に幸福なんだ」


「……私も、グレンの隣なら、これから先どんなことがあってもきっと幸せだわ……」


 互いにじっと見つめ合っていると、車内にどこかこそばゆい、甘やかな空気がじわりと流れ始める。


「……ルナリア、君の隣に移動しても?」


「あ、ええ……もちろん……」


 私が小さく頷くと、グレンは正面の席から私のすぐ隣へと移動してきた。

 肩と肩が触れ合うほど、近い距離に彼がいる。


「……港町での約束を、覚えているだろうか」


 グレンは私の横顔を、真摯な眼差しで見つめながら、少しだけ声を潜めて尋ねてきた。


「港町……あ……っ」


 かつて潮風が吹く桟橋で交わした、あの秘密の約束。

 婚約の返事をした後の特別な誓い。


「……ルナリア」


 グレンの大きな手が私の頬へと伸び、愛おしむようにその唇をそっと指先でなぞった。

 彼の指の体温が直に伝わってきて、胸がどうしようもなく熱くなる。


「目を……閉じてほしい」


「……っ、はい……」


 自分の心臓の音が、彼に伝わってしまいそうなほど、大きく聞こえてくる。

 私は彼の方へと体をわずかに向け、意を決してゆっくりと目を閉じた。


 彼の顔が、すぐ近くまで近づいてくる気配が伝わってくる。

 あまりの緊張に呼吸が浅くなっていくのを感じながら、私はただ、彼がもたらしてくれるその瞬間を待った。


 やがて、私たちの唇が、優しく重なった。


 まるで世界の時間が止まってしまったかのように、どこまでも長く感じるひととき。

 お互いの唇から伝わってくる熱。

 胸が甘く苦しくなるほどの、途方もない幸福感。


 そして、彼は名残惜しさを隠しきれない様子で、ゆっくりと唇を離した。


「グレン……」


「ルナリア……っ」


 唇を離した刹那、グレンは私の首筋へと顔を寄せ、抑えきれない熱で私の体を強く抱きしめた。


「幸せにする……必ず、この世界の何からも君を守ってみせる……! 愛している、ルナリア……!」


 切なさを感じるほどに、あふれ落ちる彼の声。

 耳元で震えるその響きから、彼がどれほど真剣に私を想ってくれているのかが伝わってきて、目頭が熱くなる。


「私も……大好きよ……グレン……」


 このまま、二人の時間が止まってしまえばいいのに。


 心からそう願わずにはいられなかった。


 いつか訪れるかもしれない過酷な運命も、今この瞬間だけはすべてを忘れて、ただ彼の存在だけで自分の心を満たしていく。

ご愛読ありがとうございます。

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