5章-100.記憶のステップ、夜会を照らす微笑み(★)
きらびやかな光に彩られた晩餐会の会場へと、私たちの乗った馬車が到着した。
先に降りたグレンが、私に向けて美しい所作で手を差し出してくれる。
私はその手を取りながら、ゆっくりと馬車のステップを降りた。
「こうやって馬車から降りる君の手を取ると、なんだか初等部の頃の出来事を思い出すよ」
「え、どうして?」
私が不思議そうに聞き返すと、グレンは愛おしそうに目を細めた。
「覚えていないかな。君が一度、ペンバートン子爵邸に戻らなければならなかった時のことだ。……私は君をあのような家へ帰したくなくて、つい衝動的にその手をつかんでしまったんだ」
「あ……そういえば、そんなことがあったわね……」
言われてみれば、あの頃のグレンはいつも以上に必死な様子で私の手を握りしめていた。
当時の記憶が昨日のことのように蘇り、私の頬がふわりと熱くなる。
「あの時、本当だったらそのまま君をどこかへ連れ去ってしまいたかった。もしアルの制止が入っていなければ、私は実際にそうしていただろうね」
「そうだったの……。実はね、私もあの時は本当は帰りたくなかったの。実家のことなんて忘れて、ずっとあなたのそばにいたかった」
「ルナリアも、あの時から私と同じ気持ちでいてくれたのか……。君の当時の本心を知ることができて、本当に嬉しいよ」
グレンは、どこまでも慈しむように、熱を帯びた声でつぶやいた。
私は彼の差し出してくれた腕に自分の手を絡め、エスコートされながら会場への道を歩み進める。
しかし、会場に近づくにつれて、やはり周囲の同年代の貴族達から一斉に視線が集まり始めた。
公爵家の神童グレンと、いわくつきの子爵令嬢である私。
その明らかな身分差もあり、好奇や奇異の混ざった複雑な目が私たちに向けられているのが肌で伝わってくる。
「やっぱり、どうしても見られてしまうわよね……」
私が少し気後れして声をひそめると、グレンは私の不安を優しく解きほぐすようにささやいた。
「気にする必要はない。皆、君のあまりの美しさに心を奪われて、思わず目を惹かれているだけだよ」
「絶対にそれは違うわ……」
私が苦笑しながら返すと、グレンは私の言葉を包み込むように告げた。
「だとしても私には関係のないことだ。私の隣に並び、ここにいていい女性は、世界中で君だけだよ」
グレンは私の顔を、この世の誰よりも美しい微笑みで見つめてくれる。
その表情が晩餐会のどの光よりもまぶしくて、照れを隠すように目を伏せてしまう。
「晩餐会の後は、舞踏会だったな」
「そうね……私はダンスがそれほど得意ではないから、少し心配だわ……」
「私がそばについているから大丈夫だ。だが、もし途中で疲れたらいつでもすぐに言ってくれ」
「ありがとう、グレン。あなたに恥をかかせてしまわないように、精一杯がんばるわね」
「そんなこと気にしなくていい。私は君と一緒に踊れる、ただそれだけで心から嬉しいのだからね」
会場を巡る給仕から受け取った飲み物を私へと手渡しながら、彼は私の緊張をほぐし、安心させるようににっこりと優しく笑った。
「グレンは……私を甘やかしすぎよ」
「君を甘やかすのは、婚約者である私の特権だ。この役目だけは、世界中の誰にも渡すつもりはない」
「もう……」
困ったように言いながらも、彼の熱い眼差しを心地よく受け止める。




