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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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9/22

第九話 第二の事件、今度は貴族の横領疑惑です

 新しい案件の概要を聞いたのは、翌朝の調査局だった。


 会議室に入ると、アルドが地図を広げていた。王都と、その周辺の貴族領を示したものだ。


 「座ってくれ」


 「はい」


 「今回の件を説明する」


 アルドが言葉を選ぶように間を置いた。


 「バルセン子爵という人物がいる。王都の南に領地を持つ、中規模の貴族だ。先日の件。フォルセ子爵の書類に、バルセン子爵との取引記録が複数含まれていた」


 「存じています。先日の書類で確認しました」


 「その取引記録の一部に、架空取引の疑いが出ている。金額の規模を見ると、かなりの額が動いている可能性がある」


 「横領疑惑、ということですか」


 「そうなる。問題は、バルセン子爵が現在、王都の復興支援事業に関わっていることだ。公金が絡んでいる」


 私は少し考えた。


(公金横領なら、単純な民事事件ではない)


 「規模によっては、刑事事件になりますね」


 「なる可能性が高い。だから、慎重に証拠を固める必要がある」


 「私にできることは何でしょうか」


 「書類の分析と記録を引き続き頼みたい。それと。今回は現場への同行が増える。問題ないか」


 「問題ありません」


 「危険な可能性もある。この件は、単純な書類上の問題ではないかもしれない」


 「その点は承知しました」


 アルドが地図から目を上げた。


 「怖くないか」


 意外な質問だった。


「怖いかどうかは、やってみないとわかりません」


 私が答えると、アルドが少し黙った。それから、小さく「そうだな」と言った。


 この日から、私とアルドはバディとして動くことが増えた。


 午前中は書類の分析、午後は現場の確認。というパターンが続いた。


 アルドと一緒に動いていると、気づくことがある。


 彼は無口で感情を表に出さないが、細かい気遣いをする人だった。


 移動の馬車では必ず日当たりのいい席を私に譲った。長い立ち仕事の後には「座ってくれ」と椅子を示した。昼食が遅くなると、部下に命じて軽食を手配させた。


 本人は何も言わない。理由も説明しない。ただ、そういう行動をする。


(気を遣っているのに、気を遣っていることを絶対に言わない)


 前世でも似たようなタイプに会ったことがある。照れているわけでも、自覚がないわけでもない。ただ、言葉にすることが難しいだけだ。


 「アルド調査官はお昼を召し上がらないのですか」


 三日目の午後、私が聞いた。


 彼が手を止めて私を見た。


 「なぜ」


 「いつも私が食べている間、書類を見ていらっしゃるので」


 「仕事が詰まっている」


 「それはそうでしょうが、食事は取った方がいいかと思います。前世でも、食事を抜き続けた同僚が体調を崩して、大事な局面で動けなくなったことがあります」


 アルドが少し止まった。


 「……前世の経験をよく持ち出すな」


 「役立つことが多いので」


 「そうか」


 それ以降、アルドは昼食をとるようになった。


 食事の時間は短く、会話もほとんどない。だが、同じ部屋で食べるようになった。


(この人、思ったより人間らしい)


 そう気づいたのは、その頃だった。


 そして五日目の夜。調査局からの帰り道、馬車に乗り込もうとしたとき、ラインが低い声で私に言った。


 「クレイン嬢、一つ気になることがあって」


 「なんでしょう」


 「先日から、嬢を跟踪している者がいるかもしれません。単独ではないかもしれない」


 「……どういうことですか」


 「局長に報告済みです。ただ、嬢にも知っておいてほしくて」


 彼女を狙っているのは、一人だけではないかもしれない。ラインの言葉が、そういう意味だと気づいた。


 私は少し考えてから、「わかりました」と答えた。


 馬車が動き出した。窓の外に、夜の王都が流れていった。


(この事件は、私が思っていたより複雑になっていく)


 そんな予感が、静かに広がっていった。


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