第八話 証人令嬢を正式に嘱託調査員として認定する
第一回の正式審問が開かれたのは、その三日後だった。
会場は先日の審問の間と同じ場所だったが、今日は関係者の数が多かった。フォルセ子爵も証人として呼ばれており、クリスタン男爵の姿もあった。
ヴィオネ嬢は今日も白いドレスを着て、代理人と並んで座っていた。顔色は前より少しよかった。私が証言に来ると知ったからか、それとも別の理由からか。
審問官が議事を始めた。
今日、私は二度目の証言に立った。
昨日までに整理した書類の分析結果と、スキルの記録。その二つを、段階的に述べた。
取引記録の矛盾。クリスタン男爵とフォルセ子爵の接点。書類中に挿入されていた記号が、証言者の身元と結びついていること。
クリスタン男爵の証言者としての信頼性に、疑義が生じることを、論理的に示した。
ルストが途中で口を挟もうとしたが、審問官が手を上げてそれを止めた。
「証言者の話を最後まで聞いてから」
ルストが黙った。
私は続けた。
前世で何百回と行ったことだ。証拠を積み上げ、論証を展開する。一つひとつ丁寧に、相手が否定できないように。
話し終えると、審問会場が静まり返った。
審問官が少し時間をかけて書類を確認した後、ルストに向いた。
「王太子殿下の代理人として、この証言に対する反論を述べよ」
ルストが立ち上がった。だが、今日の彼は言葉が少なかった。
いくつか反論を試みたが、私はそのたびに証拠に基づいて答えた。
ルストが座った。
審問官が短く述べた。
「証言者クリスタン男爵の証言については、信頼性に疑義があると判断する。ヴィオネ・アルデン侯爵令嬢への婚約解消宣言は、本日をもって一時凍結とする」
会場がざわめいた。
ヴィオネ嬢が、小さく息を吐いた。それだけだったが、その音が私の耳に届いた。
審問の後、廊下でヴィオネ嬢に呼び止められた。
「クレイン伯爵令嬢……助けていただいて、ありがとうございます」
「私はただ、見たことを述べただけです」
「それでも」
彼女は少し言葉を探してから、続けた。
「誰も、名乗り出てくれなかったのです。あの夜会に何百人もいたのに、誰も。だから。」
「私も、最初は名乗り出るつもりはありませんでした」
「え」
「召喚状が届いたから来ました。来たから、見たことを述べました。それだけです」
ヴィオネ嬢が少し目を丸くした。それから、小さく笑った。
「正直な方ですね」
「そういわれることが多いです」
「でも、正直に述べてくださったことで、私は救われました。それは本当のことです」
「……お役に立てたなら、よかったです」
素直に、そう思った。
建物の外に出ると、アルドが待っていた。
「少し時間があるか」
「はい」
廊下の脇に移動して、向き合った。
「今日の審問を経て、局として君に正式な立場を与えたい」
「嘱託証人、ということですよね。先日既に話をいただきましたが」
「今日からは、嘱託調査員という立場になってもらう」
「……違いは何でしょうか」
「証言するだけでなく、調査にも加わってもらうということだ」
「調査局の業務に、ということですか」
「そうなる」
私はしばらく考えた。
「局として、ということは」
「俺が責任を持つ」
短く、はっきりした言葉だった。
「万が一のことがあれば、局が対応する。君個人に責任が来ることはない」
「万が一のこと、とは」
「まだ事件が続く。この件には、まだ尾がある。それに君を巻き込む可能性がある」
「……」
「だから、俺が責任を持つと言った」
私は彼を見た。
真顔だった。いつもの「何も読めない顔」ではなく、はっきりと何かを言っている顔だった。
(この人は、责任という言葉を軽く使う人ではない)
前世でも今世でも、そういうことはわかる。
「承知しました」
「いいのか」
「はい。ただし、先日申し上げた条件は変わりません」
「刺繍の時間か」
「それも含めてです」
アルドが短く頷いた。
「わかった」
そうして、私は正式に王国証拠調査局の嘱託調査員となった。
令嬢が調査局の嘱託になる、というのはあまり前例のないことらしく、翌日の朝に書類を一式作成して署名した。アルドが局長として署名し、私が嘱託側として署名した。
「これで正式に」とアルドが言い、私が「はい」と答えた。
ベルトが遠くから「まさか本当に正式になるとは」とこぼし、ラインが「いいじゃないですか」と言った。
帰宅して父に報告した。
「嘱託調査員になりました」
「……嘱託証人より踏み込んでいるな」
「はい」
「大丈夫か」
「調査官殿が責任を持ってくださるとのことです」
「その調査官殿とは」
「アルド・カストという方です。調査局の局長をされています」
父が少し考えてから、「そうか」と言った。信頼できる人物かどうかを判断する沈黙だったと思う。
「……わかった。気をつけてくれ」
「はい」
翌朝、また封書が届いた。
今度は調査局からだった。アルドからの内部連絡だ。
「新しい案件が入った。詳細は局で話す。明日、来てもらいたい」
第二の事件が、始まるらしい。
私は封書を畳みながら、窓の外を見た。
春から夏へ向かう空が、青く広がっていた。




