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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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第三十二話 アルド様の告白は、証言として記録に残していいですか

 三日後の朝のことだった。


 私が調査局に着くと、アルドが既に来ていた。


 普段通りの光景のはずなのに、今日は何かが違った。


 「エルナ」


 「はい」


 「少し時間があるか」


 「あります。今日は特に急ぎの案件はありませんので」


 「……座ってくれ」


 私は椅子に座った。


 アルドも座った。向かいではなく、隣の椅子に。


 「昨日、一晩考えた」


 「はい」


 「三日前の話の続きだ」


 「……自分が何を求めているのか、ということですか」


 「そうだ」


 「少し」と言っていたことの続きが来た、と思った。


 アルドが少しの間、手元を見た。


 「俺は。」


 止まった。


 「はい」


 「……君が、好きだ」


 静かに言った。


 どこか直球すぎて、一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 「……え」


 「証人として、という意味ではない。仕事仲間として、という意味でもない」


 「はい」


 「俺にとって君は。」


 「少し待っていただけますか」


 「何がだ」


 「今のを一度、整理させてください」


 私は少し間を置いた。


 「アルド・カスト調査局長が、エルナ・クレイン伯爵令嬢に対して、個人的な好意を持つと発言した。今日、この会議室において」


 「……まとめるな」


 「整理しました」


 「整理するな」


 「でも記録の習慣が」


 「……それが君だな」


 アルドが少し首を振った。


 「返答は」


 「返答の前に、一つ確認していいですか」


 「なんだ」


 「これは証言として記録に残していいですか」


 「……何に使う」


 「個人的な記録です。スキルで映像として残します」


 「何のために」


 「大事なことは記録しておきたい性格なので」


 「……告白を証拠扱いするな」


 「証拠ではなく記録です」


 「区別しろ」


 「わかりました。記録させてください」


 「……する気か」


 「はい」


 「……勝手にしろ」


 「ありがとうございます」


 スキルを起動させた。


 この部屋の朝の光、アルドの横顔、少し赤い耳。全部記録した。


 「では、返答してもいいですか」


 「していいか、と聞くな」


 「失礼しました。では返答します」


 私は少し、真剣に考えた。


 「私も。あなたのことが好きです」


 「……本当か」


 「はい。これは証言です。記録スキルで記録済みですので、後から撤回もできません」


 「撤回するつもりはないが」


 「私もありません」


 「……そうか」


 アルドが、今日また初めて、笑った。


 今度は少し長かった。


 「君は本当に、どこまでも君だな」


 「それしかなれませんので」


 「知っている」


 「…でも、嫌いではないですか」


 「嫌いだったら告白しない」


 「そうですね」


 「……ああ」


 廊下でドタドタと足音がして、扉が開いた。


 ベルトだった。


 「局長、今日の書類が。っ」


 止まった。


 部屋の空気に気づいたらしかった。


 「……あの」


 「なんだ」


 「……いや、書類、後でいいですか」


 「出ていけ」


 「出ていきます!」


 扉が閉まった。


 廊下で「ライン! ライン! ちょっと来い!」というベルトの声が聞こえた。


 私は少し笑った。


 アルドも笑っていた。


 「知られたな」


 「知られました」


 「二人とも騒ぎそうだ」


 「しばらくはうるさいと思います」


 「……そうだな」


 それでも、アルドの表情は穏やかだった。


 こんなに穏やかな顔を見たのは初めてだと思った。


 「一つ聞いていいですか」


 「なんだ」


 「昨日一晩考えた、とおっしゃっていましたが。一晩でよかったのですか」


 「……もっと早く言うべきだったと思っている」


 「そうですか」


 「気づいたのはずっと前だった」


 「いつごろですか」


 アルドが少し止まった。


 「……護衛を受け入れてくれたあの日だったかもしれない」


 第十五話。いえ、あの朝のこと。


 「フェアではない、と言ってくれたときだ」


 「それが理由ですか」


 「その言葉で、君は俺の判断を信じてくれた。信じてもらえた、と思った」


 「…それが」


 「うれしかった」


 静かな言葉だった。


 「……そうでしたか」


 「ああ」


 「私があの日、記録スキルで記録しておけばよかったです」


 「……今からは遅い」


 「残念です」


 「その後のことは全部記録してあるだろう」


 「あります。かなり大量に」


 「……証言としての記録か」


 「個人的な記録の方が多いかもしれません」


 アルドがまた少し笑った。


 「そうか」


 「はい」


 二人でしばらく、朝の静かな部屋にいた。


 廊下からベルトとラインのひそひそ声が聞こえてきたが、二人とも気にしなかった。


 「それで」


 「はい」


 「今後のことだが」


 「はい」


 「正式な形で、いずれ父上に。」


 「父は、おそらく喜びます」


 「……そうか」


 「母も喜ぶと思います。ただ、条件を言うかもしれません」


 「何を」


 「刺繍の時間を確保すること、です」


 「……それは俺も守る」


 「約束ですね」


 「ああ」


 「では証言として記録します」


 「……もう言うな」


 「はい」


 でも記録した。


 この日のすべてを。


 大事なことは、記録しておかなければならない。


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