第三十話 証人令嬢から、次は何の称号がつくのでしょうか
審問会から二週間後。
王国から正式な書状が届いた。
「……拝啓、エルナ・クレイン伯爵令嬢殿。王国審問委員会の審議の結果、貴殿を王国認定法務証人として認定する。」
「おめでとうございます、お嬢様」
侍女が言った。
「王国認定法務証人」
私はその文字を三回読んだ。
「称号ですか」
「はい」
「……私はただ証言しただけなのですが」
「でも、とても大きな功績でしたよ」
「証拠を整理しただけです」
「それが七十三点で……」
侍女が少し遠い目をした。
その日の午後、書状を持って調査局へ向かった。
書類室に入ると、ベルトが振り返った。
「あ、エルナ嬢! 書状来ましたか?」
「はい。ご存知でしたか」
「昨日、局長に王国から連絡があって。あの、局長に渡してもらえますか、その書状」
「わかりました」
奥の執務室に向かった。
「アルド調査官殿、書状が届きました」
「ああ」
「王国認定法務証人、という称号だそうです」
「そうだな」
「なぜ先に知っていらっしゃるんですか」
「王国から審問会の結果と合わせて連絡が来た」
「……私には昨日の時点では来なかったんですが」
「本人への書状は別途発行される」
「そういう仕組みですか」
「そうだ」
アルドが書類から顔を上げた。
「おめでとう」
「……ありがとうございます」
「素直に受け取れないか」
「私はただ証言しただけですし、証拠を集めてくださったのは調査局の皆さんで。」
「受け取れ」
「はい」
「素直に」
「……おめでとうございます、と言っていただいてありがとうございます」
「少し違う」
「すみません。……ありがとうございます」
「そうだ」
アルドが書類を一枚手に取った。
その横顔が、いつもより少し柔らかかった。
(誇らしそうにしている)
思った。
普段は表情があまり変わらない人だが、今日は何かが違った。口元がわずかに動いていた。
廊下でベルトとラインがひそひそしていた。
「……局長、なんかいつもと違う顔してる」
「誇らしそうだよな」
「誇らしそうってどういう状態ですか局長が」
「あの口元の感じ」
「……あー、確かに」
私は聞こえていたが、何も言わなかった。
「王国認定法務証人、というのは、どういう立場になるんですか」
「王国の審問会で証言を行う際、正式な証人として認定される立場だ。通常の証人より証言の重みが増す」
「……つまり、また証言することになりますか」
「可能性はある」
「また事件に巻き込まれるということでしょうか」
「巻き込まれるというより、君に証言を頼む立場ができた、ということだ」
「自発的に頼まれる、ということですね」
「そうだ」
「……証人令嬢から、次は何の称号がつくのでしょうか」
「それは君が決めることだ」
私は少し考えた。
「刺繍師令嬢、というのはどうでしょう」
「……それは違う方向だ」
「でも本業は刺繍ですので」
「法務証人が刺繍師を兼ねる令嬢というのは、確かに珍しいな」
「特技が多い方が良いと思います」
「……君は本当に」
アルドが小さく首を振った。
「何ですか」
「おめでとう、と言った」
「ありがとうございます」
「次もよろしく頼む」
「……また事件があるんですか」
「あるかもしれない」
「その際は、またお世話になります」
「俺が頼む立場だが」
「では、お互いに、ということで」
アルドが少し止まった。
「……そうだな」
「はい」
私は書状を鞄にしまった。
「では刺繍の時間を確保するために、今日は早く上がります」
「そうしろ」
「今日の作業はありますか」
「ない。今日は休め」
「……珍しいですね」
「たまにはいい」
「ありがとうございます」
局を出た。
帰り道、書状をもう一度取り出した。
「王国認定法務証人」
なんとも大げさな称号だと思った。
でも。
(前世の私が聞いたら、なんと言うだろう)
前世では一介の弁護士として、証拠を積み上げ、証言を守り続けた。
今世でも、同じことをしている。
場所が変わっただけで、本質は変わらない。
(前世からの贈り物だ、と思っておきます)
馬車に乗り込んで、窓の外を見た。
今日は良い天気だった。
刺繍の続きをしよう、と思った。




