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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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第三話 証言は完璧でした、なぜか質問がやまないのですが

 翌日の朝、二通目の封書が届いた。


 今度の差出人は調査局ではなく、王国審問局だった。


 十日前の夜会に関する正式な審問会を行う。エルナ・クレイン伯爵令嬢には証言者として出廷を求める。そう書かれていた。


(来るとは思っていた)


 封書を折り畳みながら、覚悟を決めた。


 昨日の調査局での聴取は、いわば事前の下準備だ。今日の審問は正式な場になる。主要な関係者が全員揃い、証言はすべて記録に残る。昨日より重い。


 だがやることは同じだ。


 整理書をもう一度見直した。訂正すべき点はない。昨日述べたとおりのことを、今日も正確に述べるだけだ。


 馬車を呼び、王城へ向かった。



 審問の間は、王城の主棟に近い別の建物にあった。調査局より格が上で、入口には衛兵が二名立っていた。案内された部屋は昨日の会議室よりずっと広かった。


 長机が弧を描くように並び、奥の高い席に審問官が座っている。年配の男性で、金縁の眼鏡をかけ、厳かな表情をしていた。左右に関係者の席が設けられており、傍聴席にはすでに貴族たちが数名腰を下ろしていた。


 王太子クラウスの姿もある。その隣に、法律代理人らしき男が書類を抱えて座っていた。年は四十代半ば、細身で落ち着いた身なりだ。


 ヴィオネ嬢も来ていた。白いドレスは昨日よりも落ち着いた色だったが、顔色は悪かった。彼女の隣にも代理人らしき人物が座っていたが、どこか頼りなさそうだった。


 私は証言者席に通された。


(前世の法廷と配置は違うが、やることは同じだ)


 深呼吸を一つ。


 審問官が議事を始めた。


 「ヴィオネ・アルデン侯爵令嬢への婚約解消に関する審問を開始する。本日は証言者クレイン伯爵令嬢より証言を聴取する」


 「はい」


 私は立ち上がった。


 審問官から、まず基本的な質問があった。夜会に出席していたこと、スキルの概要、証言者としての立場。すべて答えた。


 「では、あの夜のヴィオネ嬢の様子について、見たことを述べよ」


 私は整理した内容に沿って、順を追って述べた。


 ヴィオネ嬢がホールの中央で令嬢仲間たちと談笑していたこと。私が確認できた時間帯と彼女の位置。書類のような紙片を手にしていなかったこと。私の視界の範囲でホールを退出しなかったこと。そして。私の視界の及ばない範囲が存在することも、正直に述べた。


 審問官が頷いた。


 「質問のある者は」


 王太子の隣の男が立ち上がった。ルスト、と名乗った。法律代理人だ。


 「証言者に確認したい」


 声は穏やかだったが、目が鋭かった。前世でいう「こちらを揺さぶりに来ている」タイプだ、とすぐにわかった。


 「貴女のスキルは「記録・論証」とのことだが、その信頼性はどのように保証されるのか」


 「王国魔法省の鑑定を受け、転生付与スキルとして認定登録されています。登録番号はこちらです」


 私は書類を取り出した。昨日の整理書に、念のため鑑定書の写しも入れてあった。


 ルストが書類を受け取り、一読した。表情が微かに変わった。


 「……しかし、このスキルで記録できるのは貴女の視野内に限られる。つまり、貴女の視野の外でヴィオネ嬢が動いた可能性は排除できないのでは」


 「その通りです。私は審問の冒頭でも述べましたが、私の証言には視野外の死角が存在します。私が見ていない場所で何かが起きた可能性は、否定できません」


 ルストが次の角度を準備するような間があった。


 「では、貴女の証言は不完全であると認める、ということか」


 「証言が完全でないことと、証言が虚偽であることは異なります。私は見たものを正確に述べています。見ていないものについては「見ていない」と述べています。それが証言者として誠実な姿勢と考えます」


 ルストの目が細くなった。別の角度から来た。


 「貴女のスキルは記録するとのことだが、その記録に解釈が加わる可能性はないか。つまり、貴女に都合のいい記憶として無意識に改変されている可能性は」


 前世でも聞いたことがある攻め方だ、と思った。目撃証言の信頼性を崩す常套手段だ。


 「スキルの記録は映像として保存されます。映像そのものを私が改変することは、スキルの特性上不可能です。私の解釈を加えることは可能ですが、私はこの審問においてスキルの映像記録に基づいて発言しており、解釈を事実として述べていません。もし審問官がご判断されるならば、魔法省の鑑定士の立ち会いのもとでスキル記録を直接ご確認いただくことも可能かと存じます」


 ルストが止まった。


 審問官が口を開いた。


 「証言者の証言を証拠として採用することに、異議はあるか」


 沈黙。


 ルストは何か言おうとして、言わなかった。


 「……ない」


 審問官が頷いた。スキルの記録が、正式な証拠として採用された。


 私は静かに席に戻った。


 それから一時間ほど、審問は続いた。他の証言者が二名呼ばれたが、二人とも「よく覚えていない」という内容だった。私の証言が最も詳細で具体的だった。審問官の表情から、ある程度の手応えは感じた。


 場が解散になって、廊下へ出た。


 「少し、話せるか」


 振り返ると、アルド調査官だった。


 審問の最初からそこにいたらしい。傍聴席ではなく、壁際の立ち席で、腕を組んで静かに見ていた。今目が合っていたとは気づかなかった。


 「……審問は終わりましたが」


 「審問とは別の話だ」


 廊下を歩き、人けのない場所で向き合った。


 彼はしばらく私を見てから、短く言った。


 「今日の証言を聞いた。昨日の聴取と合わせて、確認したいことがある」


 「何でしょう」


 「時間はあるか」


 「本日は特に予定がありませんが」


 「では、今から調査局へ来てもらえるか」


 私は一拍おいて答えた。


 「……ご用件は何でしょうか、調査官殿」


 「それは局で話す」


 「では局で話していただけますか、調査官殿」


 「そういうことになる」


 押し問答のような会話だな、と思った。


 「承知しました」と答えた。


 歩き出したアルドの背中を追いながら、私は静かに考えた。


(今日の証言を聞いた上で、さらに話したいことがある)


 単純な事件ではなくなってきた、ということだろうか。


 廊下の窓の外に、春の庭が見えた。花が満開だった。どこか遠い話のように感じた。


(この事件、まだ続く)


 前世の弁護士としての本能が、静かに告げていた。


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